2023年4月号掲載
10年変革シナリオ 時間軸のトランスフォーメーション戦略
著者紹介
概要
人口変動や地政学リスクの拡大など、今日、経営環境の変化が激しく、先を見通しづらい。そうした中で企業が生き残るには、小手先ではない、抜本的な企業の変革「トランスフォーメーション」が欠かせない。その成功のための「5つのポイント」を、BCG(ボストン コンサルティング グループ)元日本代表が事例を交え、解説する。
要約
時間軸の異なる2つの戦略
あなたの会社は、10年後に生き残っているか?主力事業は稼ぎ続けていられるだろうか?
経営環境の変化が激しい今、現在の事業が10年後も通用している、と答える人は少ないだろう。
人口変動やグローバル化、地政学リスクの拡大、技術革新など、様々な要素が企業活動に重大な影響を与えている。このように先が見通せない不安定・不確実な環境下においては、今の事業を守り維持していく経営は通用しない。経営者に今求められるのは、ロングタームの視点で将来を描き直し、変革への道筋を示すことである。
「自分たちはどういう未来に懸けるのか」「そのために自社をどうトランスフォームしていくか」という視点に立って、環境変化に耐えられる企業体にダイナミックに変えていくことが必要だ。
2つの異なる時間軸でコア事業を創造し続ける
長期的なトランスフォーメーションを成功させるために経営が果たすべきことは、次の2つだ。
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- ステージ①構造改革し、今日の競争からキャッシュを得る(持続的優位の競争戦略)
- ステージ②未来の創造のための基盤に投資する(新市場を創造するイノベーション)
つまり、2つの異なる時間軸で異なるコア事業を創造し続けることが、経営のミッションとなる。
「時間軸の異なる戦略を同時にマネージして、長期的な視点でポートフォリオを長期かつ持続的に成長できる領域にシフトさせていく変革アプローチ」という意味を込めて、「時間軸のトランスフォーメーション戦略」と定義する。
変革に成功する企業が少ない理由
過去にトランスフォーメーションにチャレンジした企業のうち、長期的な企業価値の向上につながったケースはごくわずかである。ボストン コンサルティング グループの調査によれば、成功する企業はほんの10%にすぎない。なぜか?
問題は、ステージ②で行き詰まる企業が多いことだ。トランスフォーメーションに成功する企業は、ステージ①で構造改革を進める間に、「将来の成長のために新市場や新領域をどう創造するか」の戦略的な検討やシナリオ作りも同時に行う。
それに対し、行き詰まる企業はステージ①で構造改革に取り組むことだけに汲々とし、一定の成果が出ると満足して変革の歩みを止めてしまう。そこへすぐに次のショックが襲い、再び収益性が低下すると、また慌てて一から構造改革を始める。
これを繰り返している限り、その企業に未来はない。どんどん体力が蝕まれ、従業員の求心力を失っていく。しかし実際には、多くの企業がこの失敗パターンに陥っているのが現状である。