2023年5月号掲載
欧州戦争としてのウクライナ侵攻
著者紹介
概要
2022年2月に始まった、ロシアによるウクライナ侵攻。戦争が長期化し、NATO(北大西洋条約機構)の関与が深まるにつれ、「欧州戦争」へと変わりつつある。この“大転換”の背景、そして、米国が直接介入を避けている理由などを、国際安全保障の専門家が考察。今回の戦争の本質、戦後の世界の課題、日本への教訓が示される。
要約
プーチンの戦争
2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まった。端的にいえば、この戦争は「プーチンの戦争」として始まった。
しかし、当初のロシアの計画通りには進まなかったために、戦争の性格が次第に変化した。NATO(北大西洋条約機構)の関与が深まるとともに、欧州全域への影響が大きくなり、今回の戦争は「欧州戦争」へと変容したのである。
衝撃を受けた欧州の人々
この戦争は、欧州の人々にとって衝撃的だった。2008年のロシア・ジョージア戦争、2014年からのウクライナのドンバスにおける紛争など、第二次世界大戦後も様々な紛争が存在した。ただし、ここまで大規模な戦争は勃発してこなかった。
2003年に採択されたEU(欧州連合)の「欧州安全保障戦略」は「欧州がこれほどまでに繁栄し、安全で自由だったことはない」との言葉で始まる。また、2010年のNATO戦略概念は「今日の欧州・大西洋地域は平和で、NATO領域に対する通常兵器による攻撃のリスクは低い」と謳っていた。
こうした脅威認識が長年続いていたため、2014年のロシアによるクリミアの併合などに、欧州の人々は大きな衝撃を受けることになったのだ。
プーチンが作り出した敵
「プーチンの戦争」は2022年2月24日に突然始まったのではない。2014年から続いている。
今日の観点では、「反ロシア的なウクライナ」というイメージだが、反ロシアで結束する状況はごく最近のこと。というのも、2014年以前のウクライナは、ロシアとの関係を重視する路線が一定の支持を集め、「ロシア寄り」と「西側寄り」が経済・外交の路線として拮抗していた。
ロシアによるクリミアの一方的な併合などで多くの犠牲者が発生したことは、結果として、多くのウクライナ人を反ロシア的にした。これは、プーチンが自ら作り出した状況だ。
ロシアによる一連の言動が、ウクライナを欧州寄りにさせた。これは今回の戦争の最大の皮肉だ。
欧州戦争のゆくえ
開戦から1年間のロシアの行動を振り返れば、戦争の目的に関して、変わる部分と変わらない部分が同居していることに気付かされる。