2023年6月号掲載
オンライン・インフルエンス――ビジネスを加速させる行動科学
Original Title :ONLINE INFLUENCE:Boost Your Results with Proven Behavioral Science (2020年刊)
著者紹介
概要
オンラインサイトの訪問者を望み通りに動かす方法を説いた書である。カギとなるのは、顧客の行動をいかにデザインするか、ということ。「行動デザイン」の提唱者B・J・フォッグの行動モデルなど、科学的かつ実践的な知見をもとに、その具体策が示される。売上や顧客満足度、コンバージョン率の向上につながるヒントが満載だ。
要約
行動をデザインする
「我々は、オンライン上の巧みな誘導の罠にかかっている」と、一部のメディアは報じている。欲しくもないのにバナーをクリックし、商品を購入するように踊らされている、と。
だが現実には、大成功を収めているオンラインショップでも訪問者の10人に1人しか購入行動をしていない。では、どうすれば売上は伸びるのか?それはオンライン上のデザイン次第で変わる。
行動デザインとは
行動デザインの提唱者B・J・フォッグは、「行動デザインとは、人がすでにやりたがっていることを実際の行動に移させることだ」と言う。
この行動を促すため、行動デザイナーは心理学上の重要な次の2つの真実を念頭に置いている。
- ・人は、何かきっかけがないと行動できないことがよくある。
- ・人は、困難にぶつかるとすぐに諦めてしまう。
行動デザイナーは、この“なまけ癖”を打ち破るための環境をオンライン上で整えるのだ。
フォッグ行動モデル
フォッグは、米国のスタンフォード大学の教授であり、人間の行動や、行動変化に影響を与える要因について研究している。彼が確立した「フォッグ行動モデル」は、人は自発的に行動を起こすことはない、という前提から出発する。
彼によると、人が行動を起こすには次の3つの条件が必要となる。
- ①行動を開始するには、プロンプト(きっかけ)が必要である。
- ②プロンプトに加え、モチベーションが十分に高くなければならない。
- ③プロンプトに加え、行動が十分に容易でなければならない。
行動デザインでは相互作用が重要
「プロンプト」とは、特定の行動を取るように促す、あるいは思い出させるもののことである。例えば、目覚まし時計の音だ。それは朝、目を覚ますように呼びかけてくれる。
フォッグ行動モデルによると、プロンプトが実際の行動に結びつくのは、その行動を起こす「モチベーション」と「アビリティ」が十分に高い時のみだ。モチベーションとは何かを望む気持ちの強さ、アビリティとは行動の容易さである。
しかしこれは、モチベーションとアビリティの双方が極めて高くなければならない、ということではない。その相互作用が重要なのだ。
例えば、大好きなアーティストのコンサートチケットを購入する場合。すぐに売り切れてしまうことが予想されるなら、わずかな可能性にかけ、パソコンに張りつくこともいとわないだろう。これは、モチベーションの高さがアビリティの低さを補っているのだ。逆もまた然り。どんなにモチベーションが低くても、アビリティを大幅に上げることでその気にさせることができる。