2023年7月号掲載
環境覇権 欧州発、激化するパワーゲーム
- 著者
- 出版社
- 発行日2023年4月21日
- 定価2,970円
- ページ数338ページ
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著者紹介
概要
欧州連合(EU)は、環境規制を通じて世界に覇を唱えようとしている。独自の厳しい規制、環境対策の緩い国の製品への関税、持続可能な経済活動の基準づくり…。他国から反発の声も上がる中、激化する主導権争いはどこに向かうのか。欧州で長年このテーマを取材してきた日経記者が、EU発の“パワーゲーム”の実相を描き出す。
要約
欧州グリーンディール
近年、世界の指導者が集まる場で、環境対応が話題にならないことはない。環境分野の国際的なルールづくりは、各国の利害がぶつかり合う国際政治であり、環境対策を進めながら成長や雇用拡大を追求する経済政策でもある。欧州発のパワーゲームのダイナミズムを見ていこう ―― 。
農業も金融も交通もすべてグリーンディール
欧州連合(EU)の環境関連の総合対策「欧州グリーンディール」は、ドイツの国防相だったフォンデアライエン氏が2019年に欧州委員長に指名された際、政治プログラムの1丁目1番地に据えた計画だ。
グリーンディールは単なる環境政策ではない。運輸や農業、情報通信、金融などあらゆる部門を温暖化ガスの排出が少なく、持続可能な形に変革する、社会全体を組み替える一大事業だ。
欧州グリーンディールは、①50年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする、②経済成長を資源消費から切り離す、③誰も、どの地域も取り残さない ―― という3つの柱からなる。
欧州グリーンディールの全体像
欧州グリーンディールは、いくつかのカギとなる数値を押さえると全体像を理解するのに役立つ。
まずは50年に域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにし、世界初のクライメート・ニュートラル(気候中立)の大陸になることだ。その中間点として30年に1990年比で55%減らす目標も掲げる。
大きな柱は、温暖化ガスの排出削減を中心とする気候変動対策だ。既存の排出量取引制度の拡大や、エンジン車の新車販売を大幅に絞り込むCO₂規制、再生可能エネルギーや省エネ関連の法改正が含まれる。他にも、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける国境炭素調整措置や、建物のエネルギー性能の改善などもある。
グリーンディールは成長戦略
欧州グリーンディールは、EUの新たな成長戦略といえる。
地球温暖化対策は経済成長をする上で、制約やコストと考えられてきた。しかし時代とともに意識は変わり、再生エネなどの導入拡大で地球環境を守りながら成長を追求する、「グリーン成長」の考え方が主流になりつつある。
気候変動問題で「デカップリング」は重要な言葉だ。これは経済成長と温暖化ガスの排出増の関係性が薄れることを意味する。従来は経済活動が活発になって国内総生産(GDP)が増えれば、エネルギー使用量が増え、排出が増えるのが常識だった。だが排出のない再生エネを多く使ったりすれば、経済成長と排出増の相関性は薄れる。
EUでは、1990年から2018年の間に温暖化ガスの排出が23%減った一方で、経済は61%成長した。デカップリングはすでに進んでいるが、これを一段と加速させるのが欧州グリーンディールだ。