2023年7月号掲載
思考停止という病理(やまい) もはや「お任せ」の姿勢は通用しない
- 著者
- 出版社
- 発行日2023年5月15日
- 定価990円
- ページ数221ページ
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著者紹介
概要
人を信じて疑わず、何でも専門家に「お任せ」する。日本人の多くがそんな習性を身につけている。だが、グローバル化が進む中、「お任せ」の姿勢につけ込まれ、騙される人が続出。多様な価値観が流入する今、日本人は自ら考え、判断し、行動しなければならない。そう語る心理学者が、“思考停止”に陥った日本に警鐘を鳴らす。
要約
思考停止に陥りやすい日本人の心理
私たちは、生まれ落ちた社会の文化にふさわしい人間につくられていく。
これを「社会化」という。日本に生まれれば、自己主張を慎み、相手を尊重するようになる。そして相手を信頼すれば、相手は必ずこちらの気持ちに応えてくれるはずと信じ、人を疑うのは失礼だといった感覚を身につけていく。
相手を疑うのは失礼だ、と思う心理
社会化の主な担い手は親だが、それは学校教育においても行われる。これを端的に示しているのが教科書である。心理学者の塘利枝子によると、日本と中国の小学校の教科書には、両文化にふさわしい人物像の対照性が表れているという。
日本の教科書では、無邪気に善意を信じて懐に飛び込んだ結果、本来敵であった相手の気持ちが変わり、味方になったという作品がみられる。例えば「ニャーゴ」という話では、3匹の子ネズミが敵であるネコのことを無邪気に信じて親切にするため、このネズミたちを食べる機会を狙っていたネコも、子ネズミに好意を抱くようになる。
一方、中国の教科書では、敵にうっかり同情すると痛い目に遭うことを諭す作品がみられる。例えば「農夫と蛇」という話では、冬の日、道で凍える蛇をかわいそうに思った農夫が、自分の懐に蛇を入れて温めてあげたところ、蛇はよみがえって農夫を噛み、農夫は死んでしまう。
この中国の教科書を見ると、日本人なら強い違和感を覚えるだろう。だが、それは私たちが性善説を掲げ、こちらが善意をもって接すれば、どんな相手も善意の人になるはずと信じているからだ。
逆に中国の人々が日本の教科書を見れば、そんな無邪気な態度では容易に騙されて痛い目に遭うだろうと呆れるに違いない。
グローバル化の動きの中で、物や人が移動するだけでなく、価値観も国境を越えて影響を与えている。そんな中、日本社会にも性善説では対応できない物事が増えており、様々な詐欺行為に騙される人が膨大な数に上っている。
相手の期待を裏切りたくない、という心理
日本人が騙されやすいのは、性善説に立っていることに加え、相手の期待を裏切りたくないという心理が働いているためでもある。
日本人は、仕事や勉強を頑張る理由として、大切な人物を喜ばせたいとか、悲しませたくないといった人間関係的な要因をあげることが多い。私たちは、何事に関しても絶えず相手の期待を意識して、それを裏切らないように行動しようとするところがあるのだ。
そのため、人を疑わないだけでなく、嫌と言いにくくなりがちだ。例えば、取引相手から、向こうに都合のよい条件を求められた時など、海外の人なら即座に「それは無理」と言えるが、日本人の場合は即座に拒否することができない。それで不利な契約を結んでしまったりする。