2023年8月号掲載
コンセプトの教科書 ――あたらしい価値のつくりかた
著者紹介
概要
企業や商品が何のために存在するのか。その意味を表す言葉が「コンセプト」である。それは意思決定の判断基準となり、対価の理由にもなるものだが、「才能がなければ書けない」と考える人は少なくない。そこで本書は、コンセプトの発想法から表現法までを具体的に紹介。豊富な事例を交え平易に説いた、まさに“教科書”だ!
要約
コンセプトとは何か?
コンセプトの一般的な定義は「全体を貫く新しい観点」である。現代のビジネスにおいて、全体を貫く中心に置くべきは「何のために存在するのか」を示す言葉である。
コンセプトが求められる背景
かつて、20代で結婚を考え、車を買い、家を買うのが当たり前だった時代があった。誰と結婚するか、どの車を買うか、という選択肢の悩みはあったにせよ、「そもそも必要なのか」と疑う人はほとんどいなかった。誰もが各カテゴリーから1つを選択する場合、差別化だけが争点になる。
現代では事情が大きく異なる。結婚ひとつとっても、もはや人生の前提条件ではありえない。人は「何を買うか」の前に「なぜ買うか」の答えを知りたがっている。だからビジネスもまた「それは何か」ではなく「何のために存在するか」を中心に構想されなくてはならないのである。
コンセプトの3つの役割
コンセプトは、ビジネスにおいて大きく3つの役割を果たす。
まず1つ目に、関わるすべての人に明確な「判断基準」を与える。何かをつくりあげる作業は無数の意思決定の連続だ。その際、コンセプトは他にはない独自の判断基準となる。
2つ目は、つくるもの全体に「一貫性」を与える。大きな方向性から、細かなディテールの決定に至るまで、コンセプトがなければ整合性をとることはできない。
最後に、顧客が支払う「対価の理由」になる。「人々が欲しいのは1/4インチドリルではない。1/4インチの穴が欲しいのだ」というよく知られた言葉がある。モノが存在する意味を捉えたコンセプトは、顧客がお金を支払う理由にもなる。
スターバックス「第3の場所」
皆さんはスターバックスの特徴をどのように説明するだろうか。ゆったりとした家具のレイアウト、コーヒーの香りに満ちた店内、センスのいいBGM…。こうして列挙すれば、際限なく長いリストが出来上がるはずだ。そのすべてに一気通貫した説明を与えられるのが、家と職場や学校の間にあってくつろげる「第3の場所」(サード・プレイス)というコンセプトだ。
かつてスターバックスで働くパートナーには、髪型や髪の色に制限があった。「第3の場所」に照らし合わせて、どんな客にも不快に感じられないよう清潔感を保つべきだと考えられていたのだ。
しかし2021年、この制限が撤廃された。多様性の時代、店で働くパートナーが自然に振る舞えることこそが、客にとっても過ごしやすい場づくりにつながるから、とその理由が説明されている。髪型を制限するのも、制限をなくすのも、同じ「第3の場所」というコンセプトだったわけだ。
このように揺るぎない「なぜ」がコンセプトとして経営の中心に置かれることで、時代ごとに「何を」「どのように」といった構成要素を解釈し直し、アップデートすることが可能になる。