2023年9月号掲載
カニバリゼーション ――企業の運命を決める「事業の共食い」への9つの対処法
著者紹介
概要
「カニバリゼーション」とは、新事業と既存事業が“共食い”を起こすこと。新たなビジネスが求められる今日、避け難いこの問題について、ビジネスモデル研究の第一人者が解説。カニバリゼーションがもたらす弊害とその克服方法、また、逆にこれを活用して組織を成長させる手法を、事例とともにわかりやすく語る。
要約
カニバリゼーションはなぜ問題なのか
日本の大企業の中から、「わが社のビジネスモデルを見直せ」という号令が聞こえてくる。既存事業が同質的な競争の末に価格競争に陥り、いくら努力を重ねても儲からなくなってきたからだ。
だが、既存のビジネスを持つ企業が新しいビジネスモデルを生み出すことは難しい。それは、既存ビジネスと新しいビジネスの間に、カニバリゼーション(共食い)が起きるおそれがあるからだ。
カニバリゼーションが問題となる3つの理由
カニバリゼーションが抱える課題としては、以下の3つが考えられる。
①エネルギーが社外向けではなく社内向けになる
カニバリゼーションは、言い換えれば「社内競合」である。従って、社員は社内での競合に勝つためにエネルギーを注ぐことになる。
既存事業からの圧力と戦い、社内調整にエネルギーを注ぐことは、経営戦略の実行過程では無駄なエネルギーの消費になる。社内政治のためにエネルギーを使い果たし、市場に打って出る時には疲れ果てているようでは、競争にも勝てない。
②新事業の機会損失
新事業開発の失敗には2種類ある。1つは市場性のない新事業を市場に出し、失敗に終わるケース。もう1つは、市場性があったにもかかわらず、社内の事情で事業化に至らなかったケースだ。
一般に、ビジネス書の事例研究に登場するのは前者で、これについては様々な研究や論評が行われている。一方、後者の失敗は表に出てこないため、その件数も実態も明らかになっていない。
後者は、カニバリゼーションが原因で引き起こされることが多い。今日の競争の厳しい経営環境においては、市場性のある事業を断念することによる機会損失を、見逃すわけにはいかない。
③忖度経営の蔓延
カニバリゼーションの回避は、組織的に「忖度経営」を強めていく要因となりうる。
例えば、ある企業ではトップ・マネジメントが新事業の重要性を訴えているにもかかわらず、新事業開発部門では、売上が大きく、かつ利益が出ている既存事業を刺激することがタブー視されている。こうした企業では、本業の事業部長は出世レースの先頭を走っている人物であることが多い。その人物ににらまれると、自分のキャリアが危うくなるため、他部門の社員は当人の怒りを買わないように、忖度しながら行動する傾向がある。
こうした忖度経営を続けていると組織は縮小均衡に陥り、本業のライフサイクルが成熟期に入るにつれて、業績も下降線をたどることになる。