2023年10月号掲載
習近平政権の権力構造 1人が14億人を統べる理由
- 著者
- 出版社
- 発行日2023年8月7日
- 定価2,860円
- ページ数409ページ
※『TOPPOINT』にお申し込みいただき「月刊誌会員」にご登録いただくと、ご利用いただけます。
※最新号以前に掲載の要約をご覧いただくには、別途「月刊誌プラス会員」のお申し込みが必要です。
著者紹介
概要
「2期10年」を超える異例の3期目、そして終身の指導者へ ―― 。軍や政府を掌握し、あらゆる権力を一身に集める習近平総書記。本書は、彼がその地位を得るまでの歩みと、長期政権の今後を描いたものだ。米中対立の激化やグローバルサウスの台頭など、自国が抱える難題に習氏はどう向き合うのか、詳細なデータを基に解説する。
要約
習氏の権力掌握術
2022年10月、中国にかつてない強大な政権が誕生した。習近平総書記による3期目の政権だ。習氏は、鄧小平氏が独裁を防ぐために定めた党総書記の任期「2期10年」を撤廃し、終身を睨む長期政権を打ち立てた。彼はこの3期目をどのようにして実現したのか?
習氏は反腐敗闘争を通じて政敵を排除した後、党や軍、政府組織を徹底的に改革した。その結果として、習氏にあらゆる権限が集中し、すべての意思決定が一元化された国家ができあがった。すなわち、習氏が権力を勝ち得た本質は、1人に権力が集中するシステムを2期10年かけて構築したことだ。彼が手掛けた改革の一例を挙げよう。
人民解放軍を掌握せよ
2012年に党総書記と中央軍事委員会主席に就任した後、習氏が最優先で取り組んだのが人民解放軍の掌握だ。中国において、共産党と人民解放軍は密接不可分の関係にある。軍を掌握できるかどうかは、指導者の命運を左右する。
そんな軍と習氏の関係性を決定づけた重要な転換点がある。2014年10月、福建省の古田鎮という村で開かれた「全軍政治工作会議」だ。
古田鎮は党の「聖地」として知られている。1929年12月、当時、党代表だった毛沢東は同地で開かれた「古田会議」において、「党の軍に対する絶対的指導」や「政治建軍(政治が軍をつくる)」といった原則を確立した。この会議を通じて、毛沢東の指導的地位も大きく向上した。
新・古田会議の開催を通じ、習氏が自らを毛沢東に擬らえる狙いがあったのは明白だ。彼は「党の絶対的指導」という言葉を繰り返し、毛沢東の原則を受け継ぐ指導者であることを強調した。
この会議は習氏の権威を演出すると同時に、軍内の抵抗勢力に対する「闘争宣言」という性格も帯びていた。習氏が軍事委主席に就いてからの5年間で4000件の腐敗案件が立件され、1万3000人が処分を受けた。そして軍の最高位である上将のうち7人が処分された。無期懲役や死刑判決、財産没収 ―― 。最高幹部にも容赦なく下される厳罰をみて、軍内の空気は如実に変化した。
習氏は1期目の5年間の間に、軍人らを従わせることにほぼ成功した。だが、その服従は粛清への恐怖ゆえの面従腹背であり、いつ覆るかはわからないものだった。そのため、2期目政権に向けては、軍人たちの忠誠を簡単には覆らないよう「制度」で固めることが作戦の中心となった。
「党軍関係」から「習軍関係」へ
習氏が2015年から17年にかけて手掛けた人民解放軍の改革は、大規模かつ大胆な内容だった。
改革の目的は2つある。1つは、中央軍事委員会主席である習氏にあらゆる権限を集中させることだ。もう1つは、軍を現代の戦争形態に合わせて再編成し、戦闘能力を高めることにあった。具体的には、陸、海、空軍や宇宙、サイバーなど軍の部隊の専門性を高めるとともに、各領域を横断する統合作戦能力を確立した。
画期的だったのは、中央軍事委主席と軍の各部門の間に立ちはだかっていた4総部(総政治部・総参謀部・総後勤部・総装備部)を廃止したことだ。各総部のトップはそれぞれが独自の権限と利権を独占し、独立王国を築いていた。そこで習氏は4総部を取り除き、軍事委主席が軍の各部門・機能と直接つながる組織形態に変革した。