2023年11月号掲載
資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか
Original Title :CANNIBAL CAPITALISM (2022年刊)
- 著者
- 出版社
- 発行日2023年8月10日
- 定価1,210円
- ページ数313ページ
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著者紹介
概要
パンデミック、異常気象、不安定な仕事…。今日、世界は様々な危機に直面している。それらの根源にあるのは、“カニバル(共喰い)資本主義”だ! 自然や社会、政治など、人間を支える土台を貪り喰い、その結果自身の存続まで危うくしている資本主義。世界に破局をもたらしかねないこの社会システムに、世界的政治学者が警鐘を鳴らす。
要約
「共喰い資本主義」が危機の源
私たちは窮地に陥っている。多額の負債、不安定な仕事、先細りする公共サービス、老朽化するインフラ、厳しさを増す移民政策、人種差別の絡んだ暴力、致死性のパンデミック、異常気象…。
これらの悲惨な現象の原因は何か?
「カニバル(共喰い)資本主義」。私たちを今日の状況に追い詰めた社会システムを、私はそう呼ぶ。社会、政治、自然 ―― それは私たち人間を支える土台である ―― を貪り喰う社会システムだ。
資本主義システムの本質
ここで、「資本主義」という言葉を、より明確にする必要があるだろう。この言葉は、私的所有と市場交換、賃金労働と営利目的の生産を基盤とする経済システムを指す場合が多い。ところが、この定義ではあまりに狭く、資本主義システムの本質を曖昧にしてしまう。
私が考察する「資本主義」は、もっと広い意味を持つ。すなわち、「利益第一の経済」が機能するためには「非経済的な支援」が必要であり、その「非経済的な支援を捕食する権限が経済に与えられた社会秩序」である。
例えば、自然から収奪した富、常に過小評価されるケア労働(育児や介護)、資本が必要としながらも削減しようとする公共財と公的権力、労働者の活力や創造力など。これらの富は企業のバランスシートには表れないが、企業が利益を追求するための前提条件だ。資本の蓄積を支える重要な基盤であり、資本主義秩序の本質的な構成要素だ。
現在の危機の根源
従って、「資本主義」とは経済の種類ではなく、社会の種類を指す。その社会では、経済が投資家と所有者のために貨幣価値を積み上げることと、それ以外の人の非経済的な富を貪り喰うことにお墨つきを与える。それらの富を大皿に盛りつけて企業階級の前に差し出し、私たちの創造的な能力と私たちを養う地球という食事を楽しむように促す。ところが、そうやって消費した分を補充したり、損害を回復したりする義務は企業にはない。
そこにこそ、問題の原因がある。資本主義社会は己を貪り喰う。自らが自らを不安定化する。それが周期的に危機を引き起こすとともに、常に私たちの存在の基盤を喰い荒らす。そうであれば、共喰い資本主義こそが、現在の危機の根源だ。
ケアの大喰らい
共喰い資本主義の具体例として、「ケア労働」を見てみよう。
社会的再生産の危機
家族の面倒を見て、コミュニティの生活を維持する。友情を育み、政治的ネットワークを築き、連帯を強める。ケア労働と呼ばれるこうした活動は、社会にとって不可欠だ。