2024年2月号掲載
功利主義
Original Title :UTILITARIANISM (1863年刊)
- 著者
- 出版社
- 発行日2023年11月20日
- 定価2,860円
- ページ数361ページ
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著者紹介
概要
人々の幸福を最大化することを目指す「功利主義」。経済学者ジェレミー・ベンサムが唱えたこの理論を、19世紀英国を代表する自由主義哲学者が発展させ提示した。「満足した豚であるよりも、満足しない人間である方がましである」。こう述べ、人間は下劣な快楽ではなく、知的で高級な快楽により望ましい幸福が得られると説く。
要約
功利主義とは何か
人間の知識に関わる問題のうちで、「正義とは何か」「不正とは何か」を判断する基準をめぐる論争は、ほとんど進展していない。
この極めて重要な問題についての私たちの思索は、はなはだ遅れている。
功利主義への典型的な批判
何が正義であり、何が不正であるかを判断するための基準として、「功利」という概念を採用する人々がいる。
彼らに向けられる批判の中には、功利という言葉を快楽に対立するものとみなすために生まれた誤解によるものをよくみかける。このような誤解は、功利という言葉を単に狭い意味で使っているために生まれるものである。
古代の哲学者エピクロスから功利主義の思想家ベンサムにいたるまで、功利の理論を説いた人々は、功利という言葉で何を言おうとしていたのか。
彼らは、功利という言葉で、苦痛を避けることを含めて、快楽そのもののことを考えていた。これらの論者たちは、功利を快適なものや美しいものと対立させるのではなく、功利とは何よりも快適なものであり美しいものであると主張していたのである。
功利主義の原理の核心
「功利」を道徳の基礎とみなしている立場の人々からすれば、正しい行為とは幸福を増進する傾向を備えているもののことであり、不正な行為とは幸福ではないものを生み出す傾向を備えているもののことである。
幸福であるということは快楽を獲得するということであり、苦痛から免れているということだ。不幸であるということは苦痛に悩まされるということであり、快楽を奪われているということだ。
功利主義という道徳理論の基礎となっている人生観。これによると、人生における望ましい目的は、快楽を獲得し、苦痛から免れることだけだ。そして人生において望ましいものは、そのもの自体に快楽が含まれているか、快楽を増進し苦痛を防止するための手段として望ましいかのいずれかである。
豚の幸福と人間の幸福
ところが、このような人生観は多くの人々に、抜き難い嫌悪感を生み出している。
こうした人々の語るところによると、人生における最高の目的が快楽であると考えることは、そして欲望の実現と快楽の追求よりも望ましい高貴な目的はないと考えることは、極めて浅ましく下劣なことであり、“豚”にしかふさわしくない理論であるという。実際、古代においてエピクロス派の人々は、このような卑しさを表現する豚という言葉で呼ばれたのだった。