2024年5月号掲載
僕たちはまだ、インフレのことを何も知らない ――デフレしか経験していない人のための物価上昇2000年史
Original Title :WE NEED TO TALK ABOUT INFLATION (2023年刊)
- 著者
- 出版社
- 発行日2024年3月5日
- 定価1,980円
- ページ数319ページ
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著者紹介
概要
数十年ぶりに、世界中で「インフレーション」(物価上昇)が、冬眠から目覚めつつある。なぜか? これからどうなるのか? 取るべき対策とは? 欧州最大の銀行HSBCの上級経済顧問が、歴史を振り返りながら、インフレについて述べる。デフレしか経験していない世代にとり、インフレにまつわる謎が解ける良きガイドである。
要約
50年ぶりにインフレがやってくる
2021年、インフレーション(インフレ、物価上昇)が数十年にわたる冬眠から目を覚ました。
各国の政策立案者たちは当初、新型コロナに端を発する世界的な供給不足の影響で物価上昇が起きているのは、主に半導体などのごく一部の分野だけだ、と思い込んでいた。
それ以外の物価はまだ「落ち着いている」ように見えたため、インフレが加速し始めてもなお、中央銀行家たちは金利の引き上げに踏み切れなかった。インフレは一過性のものに違いない、と踏んでいたのだ。
インフレの加速
ところが、インフレは収まるどころか、一層の加速を見せる。
プーチン大統領によるウクライナ侵攻。それに伴うエネルギー価格の上昇。これらの要因が1970年代以来となる高いインフレ率を招いた、というのがその説明だったが、実情はもう少し複雑だ。
実際には、あちこちで物価の上昇圧力が高まっていた。労働市場は大部分が人員不足と賃金の急上昇に見舞われ、尋常でないほど逼迫した。一部の指標を見ると、実質金利(名目金利からインフレ率を差し引いた実質的な金利)は下落した。
長く続いたデフレへの警戒
インフレの再来は、世界経済の発展にとって一種の分水嶺といえる。
この30年間の大半の時期を通じて、政策立案者と投資家は、デフレーション(デフレ、物価下落)の危険性の方に目を光らせていた。デフレとは、物価や賃金が下落し、金利がゼロまたはわずかなマイナスにまで下がっていく世界のことだ。
世の中では、先進国が次々と経済的な「日本化(ジャパニフィケーション)」に見舞われつつある、という危機感が高まっていた。そのため、インフレの再来は考えにくいどころか、まったく想像にない出来事だったのだ。
もちろん、日本が1990年代に体験した経済的栄光からの転落は、当初、「特殊な事例」だとされていた。ところが、2000年のアメリカのITバブル崩壊と、その8年後の世界金融危機の幕開けにより、当初「日本の問題」だとみなされていたものが、新しい国際的次元を帯びるようになる。
実際、ヨーロッパと北米では高齢化が進行し、債務が膨らみ、資産価格が暴落し、成長が停滞し、ますます多くの物価が下落していった。