2024年5月号掲載
こうして顧客は去っていく サイレントカスタマーをつなぎとめるリテンションマーケティング
著者紹介
概要
どんなに新規顧客を獲得しても、顧客離脱が続けば収益は安定しない。重要なのは、「顧客が去っていく」本当の理由を突き止めること。そう語る著者が、顧客が流出する要因を分析し、つなぎとめるための戦略を解説。多くの市場が成熟期を迎え、企業淘汰の波が押し寄せる今、自社の顧客対応を見直す上で示唆に富む1冊だ。
要約
顧客離脱の実態
「リテンションマーケティング」という新しいマーケティング手法がある。「リテンション」とは、顧客の離脱を防止して維持することを指す。
今日の多くの産業は、成熟期ないしは衰退期の段階に入っている。市場の成長期と成熟期の一番の違いが、新規顧客獲得のハードルの高さだ。成熟期ではそのハードルは一段と高くなる。
そこで、成熟期にあるビジネスでは、「顧客の離脱をいかに最小限に食い止めるか」という点が、マーケティングの重点課題に台頭することになる。
サブスクの深刻な解約実態
2023年4月、筆者は、デジタルサービスの解約実態をとらえることを目的として、消費者アンケート調査を実施した。調査の結果、有料のサブスクリプション(サブスク)サービスで利用したことがあるサービスは、高い順から動画配信(70.0%)、音楽配信(43.3%)、電子書籍(18.8%)、ゲーム(12.9%)となった。
一方、解約したことのあるサブスクを見ると、いずれのサービスも5割程度の高い解約率にある。
「不満は特にない」が去っていくユーザーの存在
調査において、「不満があってサブスクの利用をやめた経験の有無」について尋ねると、半数が特に不満はないのに、サービスから去っていった。
「特に不満はないが」で始まる理由は「消極的離脱理由」と呼び得るもので、その代表的なものは次の5つだ。
- ①特に不満はないが、他社のサービスに魅力を感じたため
- ②特に不満はないが、サービスのマンネリ化を感じたため
- ③特に不満はないが、経済的事情や生活環境の変化のため
- ④特に不満はないが、満足もない
- ⑤特に不満はないが、なんとなく
①は、デジタルサービスで特に多い理由だ。④は業界やビジネスを問わず、以前から顧客が去っていく要因として挙げられている。
このような回答者にさらに詳細を尋ねると、そのうちの一定数からは⑤が返ってくる。顧客自身もはっきりとその理由は認識していないが、「なんとなく」去るケースが少なからずあるのだ。
この「なんとなく」に光を当てる消費者調査が大切だ。突き詰めると、この「なんとなく」は「顧客満足」がゼロ状態であるということが多い。