2024年8月号掲載

20世紀経済史 上・下 ユートピアへの緩慢な歩み

Original Title :SLOUCHING TOWARDS UTOPIA:An Economic History of the Twentieth Century

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著者紹介

概要

市場経済・近代的企業・技術が牽引した「長い20世紀」は終わった ―― 。1870年から2010年まで、人類史上初めて「経済」が主役となった世紀を克明に描き出す。「長い20世紀」の始まり、この世紀が人々や社会にもたらしたもの、そして迎えた終焉。大局的な視点から「経済成長は人類を幸福にしたか?」を問う1冊だ。

要約

「長い20世紀」とは何か

 「長い20世紀」 ―― 。私がこう呼ぶものは、1870年頃に始まった。

 この頃、重大な転機となる出来事が相次いで起きている。それは、企業を興し、技術を研究する環境が整い、本格的な「グローバル化」が始まるとともに、「産業研究所」と「近代的な企業」が出現したことだ。この3つが鍵となり、それまで人類を悲惨な貧困に閉じ込めていた扉を開いた。

 かくして市場経済は、人々をいかに豊かにするかという問題に取り組むことになる。市場経済はその答えを持ち合わせており、扉を開けた先にはユートピアへと続く道が続いていた。

先進国も途上国も豊かになった

 実際、「長い20世紀」がもたらした結果は驚嘆に値する。「極貧」とされる1日2ドル以下で暮らす人々の割合は1870年には人口の約70%だったが、今では9%以下だ。

 今日、先進国の1人当たりGDPは、1870年の少なくとも20倍に達している。「グローバルサウス」と呼ばれる開発途上国でも、市民の多くは1日2~3ドルで暮らしてはいない。平均すると1日15ドルに近づいている。

 過去1世紀で出現した多くの技術的発明は、かつては金持ちが大金を払ってようやく実現できたようなことを、近代的生活の標準に変えた。現在は、人類史上で初めて、ほとんどあらゆるものが十分以上に存在する。

 世界では十分以上のカロリーが生産されているので、誰も飢える必要はない。世界には十分以上の住居が存在するので、誰も雨に濡れる必要はない。そして世界には十分以上のモノが存在し、日々生産されているので、誰も必要なものが足りなくて困る必要はない。

 要するに、私たちはもはや「必要の領域」と呼べるところにはいない。G・W・F・ヘーゲルは「まず食物と服を求めよ、その後に神の王国が加わる」と語った。だとすれば、人類はユートピアと言えるようなところにいるはずだと考えられる。

富の驚異的な増加が引き起こした5つの現象

①歴史の主役が経済になった

 富の大幅な増大の結果、「長い20世紀」は歴史上初めて経済を中心に回り始めることになる。様々な出来事が展開される表舞台が経済になり、経済的な変化が他の変化を背後で牽引した。

②グローバル化が進行した

 他の大陸で起きたことが緊急度の低い対岸の火事ではなくなり、遠いどこかで起きたことが決定的な重要性を持つようになった。

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