2024年9月号掲載

グリーン戦争 ――気候変動の国際政治

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著者紹介

概要

気候変動は今や、世界全体の課題だ。解決に向け、それぞれの国が協調して対策を講じてきた。しかし近年、足並みが乱れつつある。米国、欧州、新興国の利害が複雑に絡み合い、武器なき環境闘争と化しているのだ。著者いわく「グリーン戦争」の実態を、産業や貿易、エネルギーの脱炭素化などの諸相から考察し、提示する。

要約

国際協調を停滞させる3つの対立軸

 2015年12月、21回目の国連気候変動枠組条約の締約国会議(COP21)で「パリ協定」が採択された。パリ協定は、温室効果ガスの排出削減を195の締約国(2023年末時点)で進める歴史的な新条約だ。協定案は、様々な国の意見をバランスよく反映したものだった。

 だが、協定は試練の時を迎えている。3つの対立軸が絡み合い、国際協調が停滞しているのだ。

 第1に、削減目標を巡る西側諸国と新興国の対立である。パリ協定は、世界全体の平均気温の上昇幅を産業革命以前と比べて1.5℃以内とするよう努めるとの目標を掲げており、この達成には、温室効果ガスの排出を世界全体で大幅に減らす必要がある。そこで、ジョー・バイデン大統領は2021年4月に、自国の排出削減について「2030年に2005年比で50~52%削減」との目標を掲げた。

 ところが、新興国の反応は鈍かった。世界最大の排出国である中国は従来目標を据え置き、インドとブラジルは小幅な引き上げに留めた。このままでは世界全体の排出量は十分には減少しない。

 第2に、米中対立の激化である。2大排出国である米中の協調は、世界全体で対策を進める原動力となる。しかし近年、米中は安全保障や貿易、人権を巡って対立を激化させており、気候変動だけを切り離して協調することが難しくなっている。

 第3に、産業と貿易を巡る米欧の対立と、EUと新興国の対立である。例えば、米国は2022年8月、「インフレ抑制法(IRA)」という名の脱炭素投資法を成立させた。2031年度までの10年間で、クリーンエネルギー技術の導入に3690億ドルの政府支援を行うものである。

 これに伴い、国内外の企業が、米国の関連産業に活発に投資している。しかし、他国から見れば、将来の成長産業を米国に吸い取られている状況であり、EUを中心に米国への反発が強まっている。

 このように、パリ協定時代の国際協調は、国家間の利害対立の中で複雑に揺れている。それは、「グリーン戦争」といえる状況である。

米国のパリ協定脱退と復帰

 2017年6月、共和党のドナルド・トランプ大統領はパリ協定から脱退すると発表した。民主党のバイデン大統領のもとでパリ協定に復帰したものの、共和党政権になれば、また脱退してしまうのではないか。2024年の大統領選挙を前にして、こうした猜疑心が関係者の間で膨らみつつある。

 2024年の大統領選挙は、バイデン政権の政策を継続するか否かが争点となり、気候変動対策については、パリ協定への復帰、2030年半減目標、IRAの是非が問われる。

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