2024年9月号掲載
新しい現場力 最強の現場力にアップデートする実践的方法論
著者紹介
概要
「現場力は死んだ」。ロングセラー『現場力を鍛える』の著者・遠藤功氏はこう嘆く。日本企業の現場は競争力の柱になるどころか、現場を取り巻く環境は悪化し、不正・不祥事が続発している。その原因とは? 強い組織を再び作るには? 現状を読み解き、未来を創造する「新しい現場力」にアップデートするための方策を示す。
要約
現場力は死んだ
私は2004年に『現場力を鍛える』を出版した。以来、「現場力」、すなわちそれぞれの現場が有する問題解決力こそが日本企業の競争力の源泉だと信じ、その強化のために尽力もしてきた。
しかし、それから20年。日本企業の現場を取り巻く環境はますます悪化し、現場力は跡形もなく消えてしまった。
現場が競争力の柱になるどころか、経営の足を引っ張り、倒産や廃業に追い込みかねないレベルにまで転げ落ちている。
不正や不祥事の発生は、現場の「声なき悲鳴」
2021年6月、三菱電機で鉄道車両用空調装置の検査不正が発覚した。それを皮切りに国内16拠点で197件もの不正が明らかになった。そして2023年12月には、ダイハツ工業で新車の安全性を確認する認証試験の不正が明らかになった。
ダイハツの検査不正のニュースを聞いた時、私は「現場力は死んだ」と直感的に感じた。ダイハツはトヨタ自動車の子会社。「現場力の総本山」ともいえるトヨタグループで、このような大規模の検査不正が起きた。この事実はきわめて深刻だ。
続発する大企業での不正や不祥事。これは、これまで声を上げることができなかった現場の「声なき悲鳴」にほかならない。
現場力が死んだ4つの根本原因
日本企業の現場力はいきなり消えたわけではない。この20年の間に、経営の無為無策により徐々にやせ細り、消滅させられたのである。
現場力が消滅した大きな原因は次の4つである。
①負荷と投資の継続的なアンバランス
一般的に、現場で組織的な不正が行われるのは、現場にかかる業務負荷とそれぞれの現場が持つ組織能力に著しいギャップが生じた時である。
現場にかかる負荷とそれをこなす組織能力、つまり現場力に大きな乖離がなければ、不正は起きない。現場が不正に手を染めてしまうのは、業務が山積みなのに、それを処理する能力が著しく不足しているからである。ダイハツで起きた検査不正は、まさにその典型例である。
ダイハツの現場では、短納期での開発・生産が至上命令となっていた。しかも、衝突試験を担う部署の2022年の人員数は、2010年に比べ3分の1に減っている。「開発期間を短縮しろ」「もっと生産しろ」と号令をかける一方で、「コストを減らせ」「人を減らせ」と追い立てる。