2025年2月号掲載
陰謀脳 私たちが真実から目をそむける理由
Original Title :Salaliitot ympärilläni:Miksi totuus ei kiinnosta aivojamme? (2023年刊)
著者紹介
概要
世の中は「陰謀論」で溢れている。南米の左派系大統領が次々にがんになるのは米国の陰謀だ、ケネディ大統領の暗殺は右翼あるいは左翼の犯行だ、等々。こうした話に人が惹かれ、騙される理由を、脳科学の見地から分析した。著者によれば、陰謀論は一部の特殊な人々に限られない。「すべての人に起こり得る現象」だという。
要約
狩猟採集民の脳
多くの陰謀論は非常に奇妙で、それを信じる人々の精神状態は実に妄想的であるように思える。
ある理論によれば、ジョン・レノンの真の殺害者は作家のスティーブン・キングであり、彼はリチャード・ニクソンとロナルド・レーガンとともに政治的暗殺を計画したとされている。
こうした荒唐無稽な話を信じる人は誰なのか?
皆、おかしくなってしまったのか?
陰謀論を信じる人は妄想的な人物だと考えるのは簡単だ。しかし、そうではない。
2013年に米国で行われた調査では、回答者の63%が少なくとも1つの陰謀論を信じていた。36%が、バラク・オバマは彼のイスラム教徒の過去と真の出生地を隠していると信じていた。
陰謀論者は米国に特に多いわけではない。例えばフランス人の80%が、少なくとも1つの陰謀論を信じている。
陰謀論の普及は、信念の背後に妄想以外の何かがあることを示唆している。私たちの脳には、陰謀論を好む何かが備わっているようだ。
狩猟採集民の脳内ツールセット
私は、脳を陰謀に対して敏感にし、同時に生存を促進するメカニズムを、「狩猟採集民の認知的ツールセット」と呼んでいる。
私がこう呼ぶのは、脳が現代の都市生活とは全く異なる環境で進化したためだ。狩猟採集民は、今日の世界よりも不確かでランダムな環境で生きてきた。そのような環境のもとで、脳は脅威と機会を過敏に監視し、肉食動物や敵をチェックすることで、安全を確保しなければならなかった。
そして今、日常生活の問題解決にあたり、脳はツールセットから次の3つを選択する。
・推測