2024.10.21

編集部:小村

AI研究者にノーベル賞! 今こそ身につけておきたい「AIの教養」はこの1冊で

AI研究者にノーベル賞! 今こそ身につけておきたい「AIの教養」はこの1冊で

 10月7日から14日にかけて、今年のノーベル賞各賞が発表されました。日本では、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞に選ばれ、話題となりました。

 その他に注目すべき点としては、ノーベル物理学賞、化学賞の受賞者に「AI研究者」が選ばれたことが挙げられます。

 

 ノーベル物理学賞を受賞したのは、アメリカ・プリンストン大学のジョン・ホップフィールド教授と、カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン教授。彼らは人間の神経回路を模倣した「人工ニューラルネットワーク」の研究開発に重要な業績を積み重ねてきたことが評価されました。2人が開発した手法は、現在のAI(人工知能)技術の中核を担う「機械学習」の基礎となり、後に「ディープ・ラーニング」などの新たなモデルの確立にもつながったといわれています。

 一方、ノーベル化学賞を受賞した3人のうち、グーグルのグループ会社、ディープマインド社のデミス・ハサビスCEOと研究チームのジョン・ジャンパー氏の2人は、長年にわたり難問とされてきた「たんぱく質の立体構造」を高精度に予測するAIモデルを開発したことが評価されています(「ノーベル賞2024」/NHK NEWS WEB 2024年10月8日・9日)。

 

 今回のノーベル物理学賞・化学賞は、AIが科学の発展に大きく寄与していることを改めて知らしめるものとなりました。

ビジネスパーソンが知っておきたいAIの知識が詰まった本

 一昨年のChatGPTの登場以来、AIはビジネスパーソンにとって避けては通れないものとなっています。AIの基礎的な知識を身につけておくことは、必須と言えます。

 AIに注目が集まる現在では、インターネットで検索すれば無数のAIに関する情報を目にすることができるでしょう。しかし、それらの情報は断片的で、専門的であったり優しすぎたりするものかもしれません。ネットの情報だけでAIを総合的に理解しようと思えば、骨が折れることでしょう。

 そこで今週Pick Upするのは、ビジネスパーソンがAIについて知っておきたいことを多面的に解説してくれる1冊、『教養としてのAI講義 ビジネスパーソンも知っておくべき「人工知能」の基礎知識』(メラニー・ミッチェル/日経BP)です。

 本書はコンピューター科学研究者である著者が、AIのこれまでの歴史や現況、そして今後の見通しや道徳的な問題などについて、わかりやすく解説したものです。

 例えば、今回ノーベル物理学賞を受賞した2人が研究開発していた「人工ニューラルネットワーク」の仕組みについては、第2章「ニューラルネットワークと、台頭する機械学習」で詳しく解説されています。

AIの限界を知ることが大切

 さて、AIといえば、よく話題に上るのが人間とほぼ同等の知能を持つAI、「汎用型AI」の可能性です。専門家の中には、汎用型AIがもうすぐ実現すると予測する人がいます。本書でも、今回ノーベル化学賞を受賞したデミス・ハサビス氏らとともにディープマインド社を創業したシェイン・レッグ氏が、2008年時点での予想として「人間レベルのAIは2020年代半ばに登場するだろう」と語っていたことを紹介しています。

 著者は、こうした楽観的な見方は、近年の「深層学習」(ディープ・ラーニング)の成果によるものと見ています。しかし、今の深層学習のプログラムは「狭い」「弱い」と呼ばれるAIの1つに過ぎないと説き、次のように語ります。

 

「狭い」「弱い」という言い方は、映画に出てくるAIのように、ほぼ何でも私たち人間と同じくらいうまくこなせるか、あるいはそれ以上の可能性を秘めている「強い」「人間レベルの」「汎用型」「本格的な」AI(中略)との対比として使われている。(中略)汎用的な意味で「知性が高い」と呼べるAIのプログラムはまだひとつもつくられていない。

(『教養としてのAI講義』 71~72ページ)

 

 以前「今週のPick Up本」でご紹介した『スーパーインテリジェンス 超絶AIと人類の命運』(ニック・ボストロム/日本経済新聞出版社)は、汎用型AIが人類を滅ぼす可能性があることに警鐘を鳴らした本でした。しかし『教養としてのAI講義』の著者は、そうした「超高度な知能」の出現には、何のめどもたっていないといいます。

 そのため著者は、「AIに取って代わられる」ことを心配するよりも、現在のAIの「限界」を認識すること、そしてAIへの過大評価をやめることを訴えます。

 

私は本書を通じて、最も優れたAIシステムさえいかに脆いか、つまり入力が訓練のときのサンプルデータとあまりに異なると、システムが正常にはたらかなくなってしまうことを訴え続けてきた。(中略)短期的に、私がAIシステムに対して最も不安に思っている点は、私たちがシステムの限界や脆弱性を十分認識しないまま、あまりに高い自律性を与えてしまうことである。私たちは、AIシステムを擬人化しがちだ。そして、それらに人間的な資質があるとみなし、結局はそのシステムに対して全幅の信頼を置けると過大評価するはめになってしまう。

(『教養としてのAI講義』411~412ページ)

 

 AIのシステムのどこに限界があるのか。どの部分が脆弱なのか ―― 。本書を読み、そうした知識を身につけることは、AIの情報リテラシーを高めることにつながります。

 その知識はまた、社会においてAIシステムをどこまで受け入れるのかを判断する参考ともなるでしょう。例えば、国や民間企業が「みんなの生活を良くするために」AIを使用したシステムを導入しますよと言った時、その限界や脆弱性について思いを巡らせることができれば、導入が適正かどうかをジャッジできるのではないでしょうか。それは、政治家への投票や民間サービスの採用に、大きな影響を及ぼすでしょう。

 『教養としてのAI講義』の解説において、著者と同じコンピューター科学研究者である松原仁氏は、次のように本書を評価しています。

 

人工知能に関する本は山のように出ているが、本書の記述の正確さとわかりやすさは群を抜いている。解説者が何百冊以上の本を読んで得た人工知能の知識を、本書1冊を読むだけで得ることができる。

(『教養としてのAI講義』 456ページ)

 

 人工知能の知識が詰まった本書は、450ページ超のボリュームがあります。そのため一気に通読することは難しいかもしれません。まずは目次や索引などをたよりに、興味のあるトピックが書かれた章から読み始めてみてはいかがでしょうか。

 「AIを過大評価する」情報に惑わされないためにも、一読をおすすめします。

(編集部・小村)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2021年4月号掲載

教養としてのAI講義 ビジネスパーソンも知っておくべき「人工知能」の基礎知識

音声認識、自動翻訳、自動運転…。2000年代半ば以降、人工知能(AI)は急速に進歩し、研究開発に大金を投じる企業も多い。だが、これまでAIは、ブームになっては成果を生まず、というサイクルの繰り返し。今回の“AIの春”に際し、本書は、現況、見通し、道徳的な問題など、知っておきたいことを多面的かつやさしく説く。

著 者:メラニー・ミッチェル 出版社:日経BP 発行日:2021年2月
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