
世界を揺るがすトランプ「相互関税」
トランプ米大統領の「相互関税」が、世界を揺るがしています。
トランプ大統領は4月2日の発表に際し「解放の日だ」と強調しましたが、実際には米国内でさえ経済への悪影響に懸念を示す声が。米国の代表的な株価指数であるS&P500は、1日で4.8%下落しました。
投資家心理を冷やした一因は、景気停滞とインフレが同時進行するスタグフレーションの懸念です。
20世紀前半、フーヴァー政権下の米国では、高関税により国内産業を保護しようとしたスムート・ホーリー法の制定が、結果的に世界恐慌を悪化させました。今回の相互関税はその過去を想起させるということで、「世界恐慌の再来か」という言説も囁かれています。
世界経済に急速に不確実性が高まっている今だからこそ、未来に待ち受ける“危機”の要因を知っておくことは重要です。そこで、今週は『MEGATHREATS(メガスレット) 世界経済を破滅させる10の巨大な脅威』(ヌリエル・ルービニ 著/日経BP・日本経済新聞出版 刊)をPick Upします。
“地雷”を踏むトランプ政権
著者のヌリエル・ルービニ氏は、2008年の世界金融危機を予見した「破滅博士」の異名を持つ経済学者。そんな氏が、世界経済を破滅させる脅威として挙げるのは次のようなものです。
移民の制限、脱グローバル化、製造業の国内回帰、米中の競争激化…。
こうして見ると、トランプ政権が“地雷”をことごとく踏んでいることがわかります。
関税についても、氏はこう解説しています。
関税の導入はさしたる痛みを伴わないと考えがちだが、実際には低所得層ほど痛手を被る。国内産業を保護するために消費財の関税を引き上げたら、それを買う人に税金をかけたのと同じことだ。しかもいずれは貿易相手国が報復措置に出ることはまちがいない。つまり保護主義的政策はすべての国の消費者の預金を減らすことになる。このとき、富裕層より貧困層のほうが打撃は大きい。
(『MEGATHREATS』237ページ)
実際、今回の相互関税に接し、中国はすぐさま報復関税を発動。EUも報復措置を否定していません。MAGA(Make America Great Again)を訴え、国内の白人貧困層から熱烈な支持を受けるトランプ大統領ですが、相互関税が実体経済に影響を及ぼし始めたら果たしてどうなるのか。
ルービニ氏は本書で、政策担当者に向けて切実にこう述べています。
脱グローバル化を要求する喧しい声に屈するなら、せめてその前に、ほんとうに脱グローバル化にいたったら経済、政治、社会にどのような影響があるのか慎重に検討してもらいたい。
(『MEGATHREATS』236~237ページ)
残念ながらルービニ氏の声はトランプ大統領には届かなかったようですが、これは、とりもなおさず本書の予測する“破滅”の未来が絵空事ではないことを示しています。
そして、本書はその“破滅”の正体として、1970年代のインフレと2008年のグローバル金融危機、両方の問題点を兼ね備えた「グローバル金融・債務危機+スタグフレーション」が10年以内に訪れるとしています。
*
トランプ大統領はその後、相互関税の発動を90日間停止することを発表。スマホやパソコン・半導体製造装置などについても対象から除外するなど、当初の強硬姿勢からは後退したように見えます。一方で、中国との間では報復関税の応酬を続け、またスマホなどについては別の関税の対象とすると発信するなど、混迷の度はさらに深まっているとも受け取れます。
予測不能なトランプ外交が招き得る「最悪の展開」に備えるためにも、『MEGATHREATS』を通じて“破滅”の未来を知っておいてはいかがでしょうか。
(編集部・西田)
* * *
「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
このPick Up本を読んだ方は、
他にこんな記事にも興味を持たれています。
-
運が「良い人」「悪い人」その違いはどこにある? 米国人ジャーナリストが運が良くなる方法を明かす
-
大谷翔平選手もすすめる1冊 生きる意味と人生のあり方を稲盛和夫氏が語った名著
-
ネガティブな職場とポジティブな職場とを分ける 「感情」のマネジメント