1996年10月号掲載
打たれ強く生きる
著者紹介
概要
『落日燃ゆ』をはじめ、多くの伝記小説・経済小説を著した城山三郎氏。その氏のエッセイ集である。劇団四季の浅利慶太氏、作家の渡辺淳一氏、本田宗一郎氏…。様々な著名人、経営者、歴史上の人物のエピソードを引きつつ、「打たれ強く生きる」にはいかに考え、行動すべきかが語られる。ビジネスパーソンにとり、味わい深く、そして示唆に富む1冊である。
要約
新入者への掟
「新劇」と呼ばれる演劇の世界には、幾十の劇団がある。その中には、戦前から続いているものもあれば、民芸、俳優座などの有名なものもある。
だが、どこも経営は苦しいようである。そうした中で、戦後、若者たちが始め、今では日本最大の劇団となったところがある。
劇団四季。主宰者は浅利慶太さん。才能に溢れた男である。時代を追うのではなく、時代に背を向け、あるいは時代に一歩先んじた華麗な作品を、次々に上演してきた。
猛稽古でも有名なこの劇団への入団者に、浅利さんが決まって言う掟が、2つある。
1つは、「この世界は不平等と思え」。
平等ということを考え出したら、不平が次から次へ出てきて、稽古に集中できなくなる。その迷いを頭からポンと断ち切ってしまうのだ。
2番目の掟は、「自分の時計を持て」。
当たり前のことだが、人間1人1人皆違っている。だから、1人1人の人生が違うはずである。早熟の人もあろうし、晩成の人もあろう。
自分がどういう人間であるかをよく見極めて、毎日の生活においても、人生設計においても、自分の時計に合わせて生きていくことである。
自分の時計といえば、山椒魚の話を思い出す。
地球上の生物としては、山椒魚などの両棲類が最古のものだった。そこへ爬虫類が発生し、両棲類は次々と食べられ、死滅していった。