2011年6月号掲載
生き方 人間として一番大切なこと
著者紹介
概要
京セラやKDDIなどを育て上げた日本有数の経営者、稲盛和夫氏。『アメーバ経営』『稲盛和夫の実学』『高収益企業のつくり方』等の著作により、その独自の経営哲学は広く知られるところだが、本書では、人間の「生き方」というものを根幹から見据え、思うところを語り尽くす。稲盛氏ならではの視点、そして経験に基づく、味わい深い人生論である。
要約
思いを実現させる
世の中のことは思うようにならない ―― 私たちは、人生で起こる様々な出来事に対して、ついそんなふうに見限ってしまうことがある。
けれどもそれは、「思う通りにならないのが人生だ」と考えているから、その通りの結果を呼び寄せているだけのことである。
私は、「心が呼ばないものが自分に近づいてくるはずがない」と信じている。まず思わなければ、かなうはずのこともかなわない。
求めたものだけが手に入るという人生の法則
そのことを私が肌で知ったのは、松下幸之助さんの講演を初めて聴いた時のことだった。
松下さんは有名な「ダム式経営」の話をされた。景気の良い時こそ景気の悪い時に備えて蓄えをしておく、そういう余裕のある経営をすべきだ、と。
それを聞いて、1人の男性がこう不満をぶつけた。「現実にはそれができない。どうしたらそれができるのか、その方法を教えてくれないことには話にならないじゃないですか」。
松下さんは、苦笑を浮かべてしばらく黙っていた。それからポツリと「そんな方法は私も知りませんのや。知りませんけども、ダムを作ろうと思わんとあきまへんなあ」とつぶやいた。
松下さんの言葉に、ほとんどの人は失望したようだった。しかし私は、大きな衝撃を受けた。
まず、ダムを作りたいと思わなくてはならない。その思いが全ての始まりなのだ。つまり、心が呼ばなければ、やり方も見えてこない。だからまず、強く願望することが重要なのである。
ただし、願望を成就させるには、並みに思ったのではダメである。すさまじく思うこと、四六時中そのことを思い続け、考え抜くことが大切だ。
不可能を可能に変えるには、まず「狂」がつくほど強く思い、前向きに努力を重ねていくこと。それが、目標を達成させる唯一の方法なのである。