1997年4月号掲載
複雑系の経営 「複雑系の知」から経営者への七つのメッセージ
著者紹介
概要
今、「知」の最先端のキーワードとなっている「複雑系」。これについて、理論的な解説書としてではなく、実践的な経営書として記した1冊である。複雑系については、自然科学の視点から論じたものが多いが、実は経済や経営の分野に与える影響は広く、深い。そのことを明らかにするとともに、ビジネスにおいて複雑系はどう役立つかを、経営者の視点から論じる。
要約
求められる「経営の発想転換」
「複雑系」。この「新しい知のパラダイム」が経済や経営の分野に与える影響は広く、深い。
複雑系の知は、次の「7つの知」からなる。
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- ①全体性の知
- ②創発性の知
- ③共鳴場の知
- ④共鳴力の知
- ⑤共進化の知
- ⑥超進化の知
- ⑦1回性の知
これら7つの知は、経営者に、次のような「発想転換」の必要性を教えてくれる。
①「分析」はできない、全体を「洞察」せよ
複雑系の知の第1は、「全体性の知」である。この知の本質は、次の言葉に象徴される。
「複雑化」すると「新しい性質」を獲得する。
この言葉は、何を意味しているのか?
例えば、生物において、細胞が集まると組織、組織が集まると器官となり、各々上位のものは下位のものとは異なった性質を持つ。社会においても、個人は理性的な性質を持っていても、数千人集まると、群集心理的な性質を示すようになる。
このように、我々の生きる世界は「複雑化すると新しい性質を獲得する」という特性を持つ。
この特性のために、我々は最近、科学的手法の限界に直面している。その象徴的な例が、「分析」という手法の限界である。
分析とは、対象を研究しやすい小さな部分に分割し、それぞれの部分の性質を調べることによって、対象の全体的性質を理解する手法である。
だが、自然、社会、市場等々の研究対象は、「複雑化すると新しい性質を獲得する」という特性を持つため、分析という手法で分割した瞬間、獲得された新しい性質が見失われてしまう。そのため、全体像を正確に認識できなくなるのである。