1998年12月号掲載
「暗黙知」の経営 なぜマネジメントが壁を超えられないのか?
著者紹介
概要
我々は、語ることができるより、多くのことを知ることができる――。かつて科学哲学者マイケル・ポランニーがこのように表現した「暗黙知」。本書では、田坂広志氏がマネジメントにおける暗黙知の世界について考察。企業における様々な問題が、暗黙知の欠如によって生じていることを示しつつ、直観や洞察力、大局観といった暗黙知の世界に迫る。
要約
なぜ「直観力」が身につかないのか?
マネジメントには、「暗黙知」という世界が存在する。
暗黙知とは、科学哲学者マイケル・ポランニーが『暗黙知の次元』という著書の中で用いた言葉で、彼は次のように暗黙知を定義している。
「我々は、語ることができるより、多くのことを知ることができる」
この言葉を裏返して理解するならば、「我々は、知っていることを全て言葉にすることはできない」ということである。
すなわち、我々の中には、「言葉で語り得ない智恵」とでも呼ぶべきものがある。
この暗黙知に対して、「言葉で語り得る知識」は「言語知」とでも呼ぶべき世界である。
未熟なマネジャーの多くは、この言語知の世界だけでマネジメントを行おうとする。そして壁にぶつかる。
だが、暗黙知の世界を理解することによって、それを超える方法が見えてくる。例えば ――
* * *
マネジャーの多くが、「どのようにすれば、直観力や洞察力を身につけることができるのか?」との問いを抱いている。
しかし、多くのマネジャーが最も基本的な点を誤解している。それは、直観力や洞察力という能力が、「論理」という世界の対極にあるものと考え、感覚的訓練や感性的修練などの方法こそが、これらの能力を磨いてくれると考えていることだ。