2000年1月号掲載
人生の目的
著者紹介
概要
「人生の目的は、『自分の人生の目的』をさがすことである。(中略)そのためには、生きなければならない。生きつづけていてこそ、目的も明らかになる」 ―― 。五木寛之氏が、人は何のために生きるのかという、全ての人の心に一度は生じたであろう究極の問いに対し、答えを示す。励まさず、鼓舞せず。五木氏ならではの語り口で、人生を考察した書。
要約
なぜ今、人生の目的か
1977年のこと。東京都板橋区の高層団地から、会社員の山中了さんと長男の小学4年生、敏弘君、次男の同1年生、正人君が飛び降り自殺をした。
父親は妻に蒸発され、子供の世話で疲れたのだという。子供の手帳には、「おかあさん、ぼくたちが天国からおかあさんのことをうらむ。おかあさんもじ国(地獄)へ行け」と書いてあった。
インド哲学の権威である中村元氏は、この事件の悲惨さは、子供たちが母親を怨み、呪っていることである、最も愛情を持ってくれるはずの母を怨んでいることであると、自著で述べている。
この事件から20数年がたつ。最近はさらに悲惨だ。実の母が愛人の男と組んで、保険金目当てに高校生の息子を殺した、と新聞は報じていた。
親が子供を捨てて蒸発する時代から、親が子供を殺す時代になってきたようである。
なぜ自殺者が劇的に急増したか
実は、世界に冠たる長寿大国である日本は、同時に世界有数の自殺大国でもある。
1991年に1万9875人だった自殺者の数は年々増え続け、97年には2万4000人台に達した。
新聞によれば、98年の自殺者数は3万2863人だという。これを、「長引く不況が中高年を直撃した」と解説するのは簡単だ。
しかし、98年以前に最も多くの自殺者を記録したのは、実は86年のことなのだ。この年、2万5524人と、過去最悪の数字を示している。
86年といえば、バブル経済へ向けて助走しつつある時期だ。日本中が好景気に沸いた時期に、自殺者の数は連続して2万人を超えていたのだ。
これを見ると、「不況=自殺の増加」という分析は当たっていない気がする。