2002年3月号掲載

修身教授録 現代に甦る人間学の要諦

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著者紹介

概要

人間教育の師父。こう称される森信三氏が、大阪天王寺師範学校(現・大阪教育大学)の講師として、1937~39年に行った修身の講義をまとめたもの。人生の意味、学ぶことの意義など、「生きるための原理原則」がわかりやすく語られる。70年余り前の講義録だが、その説くところは色褪せず、進むべき道標を見失いがちな現代人に、貴重な気付きを与えてくれる。

要約

人間と生まれて

 我々人間にとって、人生の根本目標とは何か。

 それは、人として生をこの世に受けたことの意義を自覚して、真に生き甲斐があり、生まれ甲斐がある日々を送ることである。

 それを実現するためには、そもそもいかなる力によって我々は人間としてその生を受けることができたのか、この根本問題について深く思いを致さなければならない。

 我々は地上へ生まれ出る前に、人間として生まれることを希望し、あるいはそうした決意をして生まれてきたわけではない。いわんや、人間として生まれるに値するような努力や功績を積んだために、人間としての生命を受け得たわけでもない。

 このように我々がこの世に生を受けたのは、自分の努力などとは全然関わりのない事柄であり、自己を超えた大いなる力に催されてのことである。

 ところが多くの人々は、自分が人間として生をこの世に受けたことに対して、格別ありがたいとも思わずにいる。

 我々は、雑草や牛馬、犬猫といった動植物のどの1つにもならないで、人間として「生」を与えられた。それは、何らわが力によらないことを思えば、しみじみと感謝の心が湧き出るはずだ。

 しかるに現代の人々は、深い感謝の念を持つ人は甚だ少ない。自分が人間として生まれてきたことに対して感謝の念がないということは、つまり、自らの生活に対する真剣さが薄らいでいる何よりの証拠といえよう。

 これに反して、「元来与えられる資格もないのに与えられた」と思うに至って、初めて真にその意義を生かすことができる。

 現代人は日々の生活に追われて、このように物事を根本的に考えることを怠っているが、今我々は改めて、敬虔な態度にたち還って、人生の真の大道を歩み直さねばならないのである。

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