2003年2月号掲載
社長が戦わなければ、会社は変わらない 不況を言い訳にしない実践経営学
著者紹介
概要
「景気が悪いから、うまくいかない」。こんな言い訳は社長には許されない!と一喝するのが、著者の金川千尋氏。たとえ景気が悪くとも、チャンスは必ずある。それが見えないのは、普段から目の前の課題を寝ても冷めても考え抜いていないからだと氏は言う。7期連続で最高益を記録した信越化学工業の社長が語る、不況に打ち勝つ経営学。
要約
絶えず最悪を想定し、備えよ!
今、日本は大変な不況の中にある。その中にあって企業が生き残るには、自らの企業体質を強化することが必要だ。そしてそのためには、トップが先頭に立って戦わなければならない。
変転の激しい現代において、経営者にまず求められるのは、「常に先を読んで変化に備える」という姿勢である。常に最悪に備える心構えがなければ、不況の波をまともにかぶってしまう。
信越化学工業と米国シンテック社の社長を務める著者・金川氏は、それを肝に銘じている。
例えば、1999年の夏頃、米国の塩化ビニルの市況は大変な好況を呈していた。この絶頂期に、氏は、通常であれば10~11月に行う需要家との契約更改を早めに行い、契約の長期化と価格値上げを行うよう部下に指示した。
というのは、ブームはいずれ終わるからだ。だからこそ、自社の要求の通りやすいブームが続くうちに、最も理想的な形で契約を結ぼうとしたのである。
こうして熱狂の時期に確実に儲け、その利益で次にやって来る“谷間の時期”に備える。例えば、不良資産などがあれば全て処理しておく。
少しでも余裕のある時に、まず借金を返すようにすれば、銀行への信用が築け、たとえ資金繰りが苦しくなった時でもその協力をあおぎやすい。つまり、熱狂にどんどん乗っていくのではなく、次に必ず訪れる落ち込みの時期に備えて、その布石を打つわけである。
経営者には「景気が悪いから」という言い訳は許されない。「山高ければ谷深し」というが、たとえ谷が明日訪れても、それに対応できるだけの態勢をつくっておくことが経営者の責務である。そのためには、足元と目先のことをしっかりと積み重ねることが必要だ。
よく、「目先のことをあまりうるさく言うな。それよりも、大所高所から判断して、百年の計を立てるのが経営者だ」と言う人がいる。しかし、今日すべきことができていないのに、1年先、10年先に必要なことなどできるだろうか。
経営者はいつも“戦場”にいる。そのことを忘れず、いつ襲ってくるかもしれない敵に備え、絶えず戦える準備をしておくことが大切である。
この「常在戦場」の心構えがあれば、最悪の時に備えることができるだけでなく、長期的な展望も開ける。