2006年9月号掲載
日本史に刻まれた最期の言葉
- 著者
- 出版社
- 発行日2006年7月5日
- 定価814円
- ページ数220ページ
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著者紹介
概要
名君、武将、名僧、学者…。わが国の歴史を彩ってきた偉人たちの“最期の言葉”を、古代から編年的に時代を追って紹介した書。苦難を乗り越え、生を燃焼し尽くした者たちの言葉が、童門冬二氏ならではの語り口で、味わい深く披露される。重く、力強いこれらの言葉は、様々な悩みを抱える現代人にとって、生きていく上での大きな励まし、ヒントになることだろう。
要約
“最期の言葉”とは?
「人間五十年 下天のうちを比ぶれば 夢幻のごとくなり ひとたび生を得て滅せぬ者のあるべきや」── 。
これは、織田信長が好み、遺言的な意味で受け取られている謡曲「敦盛」の一節で、「人生の無常感」を謡ったものである。
同じ意味のことを、上杉謙信がまさしく遺言として詩に詠んでいる。
「四十九年一睡夢 一期栄華一盃酒」
「49年の人生はただ一定の夢でしかない。生涯の栄誉も一杯の酒のようなものだ(あるいは一杯の酒に及ばない)」という意味である。
2人は、同じような主旨のことを人生観とした。だが、そのメッセージの送り方は全く違う。
上杉謙信はこの詩を詠んで5日後だかに死んだ。一方、信長が「敦盛」の一節を世にメッセージとして送ったのは、彼の名を一躍有名にした桶狭間の合戦に出陣する直前のことである。
戦力10倍以上の今川軍にビビる家臣たちに対し、この敦盛を謡いながら舞を舞って、全軍の戦意を鼓舞したのだ。そしてこの決戦で彼は勝ち、その後天下人への道をまっしぐらに走っていく。
つまり、謙信の場合の辞世は「生涯を締め括る言葉」であり、信長の場合は「これから立ち向かう数々の危機への挑戦のスタート」なのである。
このように、“最期の言葉”というのは、必ずしもその人間が死ぬ時に発した言葉とは限らない。
最期とはそこで終わりという意味ではなく、「今までの終わり」を示すのであって、「そこからもう一度立ち上がって生き直す」という意味合いもあるのだ。