2007年5月号掲載
何のために働くのか
著者紹介
概要
幼い頃から中国古典に親しみ、学問の修養を続けてきた著者が、東洋思想を下地とした自身の仕事観を世に問う。「仕事とは人生そのもの」という著者のメッセージは、若い人だけでなく全てのビジネスパーソンに深い感銘を与える。自らの職業観を固めたい、仕事の行き詰まりを打破したい ―― そんな人への示唆に満ちた、北尾流人生論。
要約
人間は仕事の中で成長する
人は何のために働くのか —— 。
それは、よく言われる「自己実現のため」でも、「生活の糧を得るため」でもない。「生きがい」を見つけるためである。
人は、人生の大半を働いて過ごすのだから、もしも働くことに幸福感が感じられなければ、「自分の人生とは一体何なのか」という不安や疑問が一生ついて回るだろう。
その点で、仕事とは人生そのものと言ってもいい。仕事に生きがいが見出せなければ、人生の意味がほとんどなくなるとさえ言える。
中村天風さんは、次のように語っている。
「人間出生、本来の使命は、宇宙創造の原則に即応して、この世の中の進化と向上を実現化するという使命をもって生まれてきたのである。この使命の遂行こそ働くという行為であり、人間本来の面目というものである。このような使命の遂行観に基づく自己実現の実感、これこそが生き甲斐なのだ」
天から与えられた使命を、仕事を通じて達成することを天風さんは「自己実現」と表現している。
だが、昨今よく使われる自己実現とは、これほど深いものではなく、個人の夢を達成する程度のものだ。こうした意味において、「働くのは自己実現のため」と簡単に言い切れるものではない。
米国ではよく「価値を上げるために働く」という言い方をする。彼らは、経験を積み、知識を増やすことで自分の価値が上がると考える。そして、価値が上がると、どんどん職を変えていく。
ステップアップとは「自分の年収がどれだけ増えるか」を意味し、そこには天命に従って働くという考え方は全くない。一方、東洋思想では、仕事とは天命に従って働くことだと考える。
仕事という字は、「仕」も「事」も「つかえる」と読む。つまり、天につかえ、天の命に従って働くというのが、東洋に古来からある考え方である。