2007年9月号掲載
21世紀の国富論
著者紹介
概要
今、日本では時価総額の拡大やM&Aといった、米国型資本主義が広がりつつある。だがそれは、産業界に様々な弊害をもたらしている。今後日本は、米国の真似ではない、新しい資本主義のルールを作り、新たな基幹産業を生み出さねばならない ―― 。米国で活躍するベンチャーキャピタリストが、現行の資本主義の問題点を検証し、日本が歩むべき道を指し示す。
要約
米国型資本主義の問題点
日本は今、会計基準や資本のグローバル化とともに、米国を手本にしようとしている。だが米国型経営、米国型資本主義に問題はないのだろうか。
中長期の経営に欠かせない内部留保の軽視
あなたが経営者だとする。会社では今、社運を賭けた研究開発を決断しようとしているが、このプロジェクトは失敗の可能性も高い。こんな場合、どうやって資金を用意すればよいか?
資金調達の方法として「①金融機関から借り入れる」「②株主から調達する」「③コツコツと蓄えた内部留保を使う」の3つが考えられるが、①は、借入金自体がリスクを好まない資金なので、この場合の資金の性格に合わない。②は株主の反対にあい、説得に時間がかかるだろう。
従って答えは、③の内部留保を使う、になる。自らの未来に長年の蓄えを賭けるというのは、ごく当然の発想である。だが最近は、中長期の経営を行う上で不可欠なこの内部留保を軽視しがちだ。
このような考え方をもたらした背景に、ITなど新しい産業における利益率の変化がある。
例えば、マカフィーというコンピュータウイルスのワクチンを作っている企業がある。この会社のグロスマージン(商業でいう粗利益率、製造業でいう売上高総利益率)は100%になっている。
100%、つまり売上高と粗利益が一致するということは、生産原価がないということである。
ソフトウェア産業では、作った製品をインターネットでユーザーに送ることができるため、「モノを作るための原価」がゼロになるのだ。
こうしたソフトウェア産業の驚異的な高収益率がもたらしたインパクトにより、米国では企業の収益率に対する見方が大きく変わったのである。
ベンチャーキャピタルの変質
だが、優れたアイディアがあればすぐに事業が実現するわけではなく、製品の開発はリスクを伴い、時間もかかる。新技術の開発を目指す企業にとり、内部留保が大切であることに変わりはない。
では、内部留保がない新しい企業はどうすればいいのか? そんな彼らのリスクを引き受け、資金を提供するのがベンチャーキャピタルだった。