2007年11月号掲載
リタイア・モラトリアム すぐに退職しない団塊世代は何を変えるか
著者紹介
概要
「リタイア・モラトリアム」とは、定年退職後も再雇用されて働きながら、本当に離職(リタイア)するまで過ごす期間のこと。いわばリタイアまでのソフトランディング期間で、団塊世代の多くがこの時期に入りつつある。この猶予期間は彼らのライフスタイルにどんな変化をもたらすのか、本書はそれを分析するとともに、シニアビジネスの方向性を提示する。
要約
リタイア・モラトリアムの出現
今、定年退職後も働き続ける人が増えている。
2006年4月に施行された「改正高齢者雇用安定法」によって、年金の支給年齢が60歳から65歳に引き上げられるのと引き換えに、65歳までの雇用継続が企業に義務づけられたからだ。
一旦定年退職した後も再雇用されて働く人々の多くは、給料が半減し、年下の上司との心理的葛藤を抱えながら、経済的に支障のない時期までを職場で過ごそうとしている。
このような状態で本当の離職(リタイア)まで過ごす期間を「リタイア・モラトリアム」という。つまり、離職までの一時的な猶予期間・状態だ。
これまでは、サラリーマンの大半が、退職日から突然リタイア生活に突入させられた。それまで何十年も会社中心の生活を送ってきた人にとって、この精神的ショックは大きい。
ところが、リタイア・モラトリアムの出現によって、離職までの流れが連続的で緩やかなものに変わっていく。つまり、リタイア・モラトリアムは、キャリアからリタイアへのソフトランディング期間になるのである。
会社一筋に過ごしてきた人にとって、このリタイア・モラトリアムは、生涯で初めての興味深い時期となる。なぜなら、年金プラスアルファの収入を得て、会社員としての信用力も維持しながら、重い責任を負わされることなく、週に数日、平日の自由時間を持てるという生活が可能だからだ。
こう考えると、リタイア・モラトリアムは、決して辛く屈辱的な忍耐の期間ではない。むしろ、会社中心から個人中心の生活に切り替えるための、有用な準備期間として活用できるのである。
リタイア・モラトリアムにおける脳と心の変化
リタイア・モラトリアムを体験する人は、しない人に比べ、ライフスタイルに変化が起きやすい。
それは、リタイア・モラトリアムに突入する時期の脳と心理の変化に大きく関係がある。
米ジョージ・ワシントン大学の医学者ジーン・コーエンの調査によると、後半生の心理的発達段階として、通常50代後半〜70代前半に、「解放段階」と呼ばれるものが訪れる。