2008年5月号掲載
人生生涯小僧のこころ
著者紹介
概要
奈良・吉野山の金峯山寺から24キロ先の大峯山に至る険しい山道を1日で往復。それを1000日間にわたって行う大峯千日回峰行。同寺1300年の歴史の中で満行を果たしたのは、著者の塩沼亮潤氏を含めただ2人という、超人的な修行である。その過酷な日々に身を投じ、時に命を危険にさらしつつも休むことなく歩き続けた氏が、修行の末につかんだ世界とは ―― 。
要約
千日回峰行とはどういうものか
奈良県吉野山の金峯山寺蔵王堂から大峯山と呼ばれる山上ヶ岳までの片道約24キロの山道を1日で往復し、合計4万8000キロを歩く —— 。これが、大峯千日回峰行という修行である。
この行には、たった1つだけ掟がある。それは、いったん行に入ったら決して途中で行をやめることはできない、ということだ。足の骨を折っても、不慮の事故に遭っても、後戻りはできない。
万が一この行をやめる時には、神仏にお詫びをして、左腰に携えている短刀で腹をかき切って自害するか、あるいは死出紐という紐を木に結び付けて首をくくって命を絶たなくてはならない。文字通り、命がけの行である。
金峯山寺は、西暦673年に役行者によって創立された。役行者は大峯山において「五濁悪世、末法の世を救うにふさわしい本尊さんを何卒この世に出現させてください」とのご誓願のもと、千日間の難行苦行をしたという。
その満願の日に御本尊としてご感得されたのが「金剛蔵王大権現」である。それは、山頂の盤石を鳴動させて出現したと伝えられ、その盤石の上に祠を建ててつくられたのが、山上の蔵王堂だ。
そして吉野山にお堂を建て、蔵王権現をお祀りしたのが、修験道の発祥と言われている。
千日回峰行というと、千日間連続して回峰行をするものと思う人が多いだろうが、そうではない。山を歩く期間は5月3日から9月22日までと決められている。その間の約4カ月間を目処に、毎年百二十数日を歩くのが決まりになっている。
また、はじめから千日回峰行に入行できるわけではない。まず百日回峰行を満行する必要がある。
その翌年から千日回峰行に入ることができるが、百日回峰行の翌年すぐに千日回峰行に入ったとしても、満行までには9年の歳月がかかる。
非常に長く、厳しい行なのである。
何ゆえに行ずるのか
では、行とは何なのか?