2008年6月号掲載
デフレは終わらない 騙されないための裏読み経済学
著者紹介
概要
「やがてインフレになる」「長期金利は上昇する」…。こうしたマスコミ情報を鵜呑みにするのは危険である! ――『日経公社債情報』エコノミストランキング6年連続第1位の著者が、脚色された経済報道に異議を唱える。依然デフレ基調にある日本経済の実態を描くとともに、景気の足元が固まらない段階で、利上げを繰り返す日銀の金融政策についても疑問を呈する。
要約
「デフレが終わる」は本当か?
「物価の下落が続くデフレの時代が終わり、今後は物価が上昇するインフレの時代が訪れる」
そうした見方を伝える経済雑誌の特集が、2006年頃から見られるようになった。
07年1月から10月にかけ、原油は約1.8倍に、小麦は約2倍に値上がりした。そして原材料価格の高騰を受け、国内でもガソリン、サラダ油、食パンなど、身近な品目の値上がりが目立ってきた。
そうした価格上昇が、「インフレ到来」という特集を組むきっかけになっている。
だが、原材料コストの上昇で「インフレ到来」と即断するのはどうか?
「原材料コスト高→食品・エネルギー関連を中心とした値上がり増加→インフレ」というシナリオは、必ずしも成立するわけではない。
インフレ報道の根拠となった原材料の世界的高騰
そのことを理解するには、まず原材料コスト高騰の背景について見ていく必要がある。
原油価格の高騰の場合、その第1の理由は、中国やインドに代表される新興諸国の経済高成長と、それに伴う原油需要の増大を背景に、国際的に原油の需給が逼迫していることである。
2つ目の理由は、ドルの下落だ。近年、ドル相場の下落基調が続いているので、産油国の受け取るドル建て原油代金の購買力が低下している。それを埋め合わせる方向で、ドル建ての原油価格に上昇圧力がかかっているわけである。
また、米ヘッジファンドのような投機マネーなどが原油先物市場に流入し、イランやイラクといった産油国にまつわる地政学的リスク、米国の製油所稼働率の低下や石油製品の在庫減少などを材料にしつつ原油先物価格を押し上げていることも、価格高騰の理由として見落とせない。
穀物の国際市況の上昇の理由としては、まず、収益機会に目ざとい投機マネーが大量に流入した影響がある。その他、クリーンエネルギーとしてのバイオエタノール需要が増大し、原材料になるとうもろこしが値上がりしたこと、その余波で他の穀物の作付けが減少したことなどが挙げられる。