2023年1月号掲載
この一冊でわかる世界経済の新常識2023
概要
変化が激しく、先を読むのが難しい今日の世界情勢。2023年、各国経済はどのような局面を迎えるのか、大和総研のエコノミストたちが考察した。米国は高インフレに耐えられるか。エネルギー危機に直面するEUは? 厳しい外部環境の中、日本の経済活動は正常化できるのか…。世界経済の基礎知識を示しつつ、多面的に展望する。
要約
世界経済の8大注目ポイント
2022年の世界経済は厳しいものだった。多くの国では歴史的な高インフレが発生し、ロシアによるウクライナ侵攻が事態をより悪化させた。
では、2023年の世界経済はどうなるのか? 注目ポイントは、次の8つである。
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- ①歴史的な高インフレ
- ②世界的な金融引き締め
- ③膨らむ新興国の債務リスク
- ④欧州のエネルギー危機
- ⑤深刻化する食料危機
- ⑥民主主義と権威主義の対立先鋭化
- ⑦経済安全保障とサプライチェーン
- ⑧中国「ゼロコロナ」政策の行方
歴史的な高インフレ
注目すべき点の1つは、高インフレの先行きである。2023年のインフレ率の先行きを展望すると、上昇ペースは鈍化すると予想される。歴史的な高インフレを受けて、世界各国の中央銀行は金融引き締めを進めており、これによって経済成長率は多くの地域で低下することが見込まれるためだ。
ただし、世界的な金融引き締めにもかかわらず、インフレ率の高止まりが長引くリスクには注意が必要だ。金融引き締めによって需要は抑制される可能性が高いが、一方で、供給面からのインフレ圧力については先行きも不確実性が高い。例えばウクライナ情勢が悪化すれば、エネルギー不足がさらに悪化するリスクがある。
また、新型コロナウイルスとウクライナ問題という2つの要因によって、サプライチェーンの強靭化に対する意識が世界的に高まった。従来、サプライチェーン構築においてはコスト面を中心に効率性が重視されたが、有事の際にも安定調達が可能となるよう、サプライチェーンの頑健性の優先度が高まれば、様々なコストの上昇につながる。
さらにエネルギー分野では、「脱ロシア」という文脈の延長線上で、脱炭素の動きが活発化する可能性がある。そうなった場合、エネルギーコストが従来よりも高くなる、いわゆる「グリーンフレーション」を加速させかねない。
以上のように、インフレは徐々に沈静化していくことが見込まれるものの、上振れリスクが高い状況が続くとみられる。
世界的な金融引き締め
世界的に広がる利上げトレンドが23年以降も続くか否かを占う上では、先進国における金融政策の動向がカギを握ることになる。
先進国の中央銀行は、23年も利上げを継続する可能性が高い。欧米など先進国の多くはインフレターゲットを導入しているが、すべての導入国においてインフレ率は目標値を上回っている(22年9月時点)。こうした状況下では、各国の中央銀行は金融引き締めで対応する必要性が大きい。
各国の中央銀行がいつまで利上げを続けるかについては、インフレ率次第ということになるが、これには利上げのペースも影響するだろう。
例えば、非常に速いペースでの利上げを進めた米国では、インフレ率が頭打ちとなり、目標である2%へと回帰していくことが見通すことができるようになれば、早い段階で利上げが停止される可能性がある。一方、相対的に出遅れ感が否めないユーロ圏については、金融引き締めの効果が発現するまでに時間がかかるとみられ、23年に入ってもしばらく利上げを続ける公算が大きい。