2009年7月号掲載
ゲームの変革者 イノベーションで収益を伸ばす
Original Title :THE GAME-CHANGER
著者紹介
概要
次々とユニークな新製品を世に送るP&G。同社の開発力が優れているのは、「イノベーション」を経営の中心に据えているからだ。例えば、イノベーションを生み出しやすくするための特別な組織を、何種類も持っている。こうしたイノベーションを軸とする経営手法を、同社のA・G・ラフリー会長兼CEOと、世界的経営コンサルタントのラム・チャラン氏が解説する。
要約
イノベーションの基盤
どの会社にも、よって立つ原則というものがあり、その原則に基づいて決断し、機会を生み出す。P&Gの場合、それは“イノベーション”だ。
変化の激しい現代、今日ユニークだと見なされている製品も、明日にはありふれたものになってしまう。競争相手に勝つには、売上の増大、利益の拡大を持続させる新たな方法が必要となる。
イノベーションを研究開発部門の仕事と考えたら大間違いだ。それは経営の根幹をなすもので、目標設定、戦略作成、組織構成、予算策定など、重要な意思決定を下す基盤となる。
では、イノベーション中心の経営を行うにはどうすればよいか。それにはまず、次の3点をしっかり押さえる必要がある。
①消費者がボス
どの文化にも独特の言葉がある。P&Gにも多くの言葉やフレーズがあるが、その中で最も重要なのが、「消費者がボス(コンシューマー・イズ・ボス)」だ。
消費者はイノベーションの源泉である。
イノベーションで最も本質的な点は、彼らをしっかり理解することだ。消費者の言葉に耳を澄ませ、日々の生活を観察し、彼らが何に心を動かされ、何を望んでいるかを理解しなくてはならない。
例えば、P&Gはメキシコにおいて、富裕層の市場では成功していたものの、中間層では苦戦していた。そこで、中間層についてもっと知らねばならないと考え、消費者密着プログラム「生活してみる」を作り出した。これは、社員が低所得者層の家族と数日間寝起きを共にするというものだ。
このプログラムで発見したのは、水の問題だった。僻地に住む何百万という女性は、いまだに地域の水道ポンプまで行ってバケツで水を運ぶ生活をしている。このため、洗濯は大変な家事労働だ。
これで解決すべき問題点 ―― 洗濯を楽にして水量を抑える ―― が判明したので、後はどんな商品を提供するかに的は絞られた。
そして提供したのが、「ダウニー・シングル・リンス」だった。これを使えば、すすぎの回数が減り、労力と水量を大幅に減らせる。結果的に、この商品は発売と同時にヒットとなった。