2004年8月号掲載
イノベーションの本質
著者紹介
概要
タイトルの硬さを良い意味で裏切る、“熱い”本である。ヒット商品が生まれる瞬間、そこには必ず、組織を構成する人々の思いや信念といった目には見えない「知」と、執拗なまでに理想を追求する姿勢があることがよくわかる。そして、それこそがイノベーションに欠かせない「本質」なのだ。ヒット商品誕生の裏話としても興味深く読める。
要約
知識経営の根底にあるもの
「知識経営」 ── 。それは、IT化によって社内のデータや知識を経営資源として活用するといった表層的な情報管理のことではない。
例えば、キヤノンをはじめ多くの日本のメーカーがとる「セル生産方式」を、「知」の観点から見ると、その深い意味合いが見えてくる。
セル方式は、ワークセルと呼ばれる1人もしくは少人数のチームが1つの製品の組立工程を一貫してこなすもので、一般的には部材や設備を置くスペースが省けるといった数値上の生産性向上が注目される。だが、より大きな成果は、ものづくりに関わる1人1人の知の生産性が高まり、新しい知が次々と生まれてくることにある。
セル化すれば、1人1人が多能工化して自ら創意工夫を始める。さらにキヤノンの場合、全工程を1人でこなす「スーパーマイスター」クラスになると、他部門にも提案や助言をするなど、ものづくりにおける中心的役割を担うようになる。
人をコスト要因としてではなく、知を生み出し、付加価値を高める主体的存在として捉え、その創造力によって生産革新を繰り返していく ―― 。
つまり、知識経営の本質は人間にあるのだ。そして、「知識創造」のプロセスとは、製品の開発に関わる人々がいかに人間らしく働き、主体的に能力を発揮していったかということなのである。
では、優れた知識創造企業が生み出すヒット商品に共通する「イノベーションの本質」を、人と組織の観点から捉えるとどうなるだろうか?
サントリー カラダ・バランス飲料「DAKARA」
2000年に発売されたサントリーのスポーツ飲料「DAKARA」は、“飲む”場面が定番だった清涼飲料のCMに、人形の小便小僧とはいえ、“出す”という商品コンセプトを初めて前面に打ち出した。そして、「ポカリスエット」と「アクエリアス」の2大ブランドの牙城を販売2年で切り崩した。
それはなぜ、可能だったのか?
まず開発チームは、コンセプトの共有を図るため、発足時から企画、デザイン、研究など各部門の人材が集まる混成部隊とした。そして「調査に依存せず、現場の人間を重視する」という価値観のもと、様々な場所で人に会い、意見を求めた。
スタートから2年、チームが導き出したコンセプトは「もうひと頑張りできる働く男のスポーツドリンク」だった。だが、チームの誰もがこれにどこか「冷たさ」を感じていた。