2011年8月号掲載
なぜ、「これ」は健康にいいのか? 副交感神経が人生の質を決める
著者紹介
概要
自律神経のバランスを整えることで、全てが良い方向に変わる ―― 。自律神経研究の第一人者として知られる医師が、自律神経と心身の健康との関わり、そのコントロール法をわかりやすく説く。運動は朝と夜、どちらにすべきか。ウォーキングとジョギング、どちらが健康に良いか。こうした健康にまつわる話が、自律神経のバランスの観点から説明される。
要約
なぜ女性は男性より長生きなのか
私が体力の衰えを自覚したのは、30歳を過ぎた時だった。20代の時には何でもなかった病院の当直が、極端につらく感じられるようになったのである。
「これが年をとるということなのか」と思いつつも、その変化に疑問も感じた。なぜなら、そこまで体力が落ちる理由がわからなかったからだ。
そこで、周りの医者や友人に、いつ頃から体力の衰えを感じるようになったか聞いてみた。すると、男性のほとんどは30歳を過ぎた頃だと答えたのだが、女性の場合は40歳を過ぎた頃に「極端な変化」を感じたという人が圧倒的に多かった。
この、体力の極端な変化が何によるものなのか、答えは思いがけないところで見つかった。
それは「男女年代別の自律神経測定データ」だ。順天堂大学における私たちの研究チームが自律神経について研究を始めるにあたり、最初に行った大規模調査に基づくデータである。
研究を開始するにあたって、私たちは、健康な人の自律神経活性が加齢に伴ってどう変化するのか、データを集め調べていった。
そして調査に際し、私たちは「自律神経は交感神経も副交感神経も、加齢とともに低下していくだろう」という仮説を立てた。
ところが、集まったデータは予想外のものだった。交感神経のレベルには、加齢による変化も男女差もほとんど見られなかったのである。
一方、副交感神経のレベルは予想通り加齢とともに緩やかに下降していたが、男女ともに急降下する時期があった。そして、その年代こそが、男性は30歳、女性は40歳を過ぎた頃だったのだ。
つまり、「急激な体力低下」は、副交感神経が急降下したことによる「自律神経のバランスの乱れ」が原因だった可能性が強まったのである。
2010年現在、日本人の男性の平均寿命は79.59歳、女性は86.44歳と、男女で約7歳の差がある。