2011年9月号掲載
逆境を越えてゆく者へ 爪先立ちで明日を考える
著者紹介
概要
『武士道』の著者として知られる新渡戸稲造の名著、『修養』と『自警』を再編集した書。困難をいかに克服するか、そのためにはどんな修養をすべきか。こうしたことを説いた部分に焦点を絞り、紹介する。原著はおよそ100年前のものだが、その教えは今も色褪せない。苦難の中にあって前へ進もうとする人に、深い示唆、そして勇気を与えてくれる1冊である。
要約
逆境とは何か
世の中をうまく渡り、順風満帆の人を見ると、多くの人はその幸福を羨むが、当人にしてみれば案外、外からはわからない苦しさがあったりする。
例えば、「高い木は風当たりが強い」という諺のように、嫉妬の声があちこちから聞こえ、することなすこと非難され、引き倒されそうになる。
このような世の中をうるさく感じ、平穏に過ごそうとすれば、山の中にでも住む他はない。
せっかくこの世に生まれてきたのだから何かしたいと思えば、必ず意のままにならないことが起こるものだ。逆境というのは、多くの場合、これを意味するのではないか。
そうであるなら、逆境は世の中の全ての人が逃れられないもの、ということになる。
外から来た不幸、自ら作り出す不幸
得意の絶頂にある人にも大統領の地位にある人にも、必ず自分の思い通りにならないことがある。
この自分の思い通りにならないことには、2種類がある。つまり、天の授けるものと自分が作り出すものである。
前者は運命と称され、後者は自業自得といわれる。もっとも自業自得と称するものにも運命の分が少なからず含まれているし、運命といわれるもののうちにも自分の責任に帰する分が少なくない。
2種類の禍いのうち人生でどちらが多いかといえば、自ら作り出すものの方がはるかに多い。ただ人は普通、なぜ逆境に陥ったかをよく考えないから、天を怨んだり他人を怨んだりするのだ。
想像から生まれる逆境もある
禍いというほどのものではないが、想像が描き出す逆境もある。
つまり自分は自分の持つ本当の価値に見合った待遇を受けていないと考え、不満に思い、自ら逆境を作り出す ―― そういう者が多い。隴を得て蜀を望む ―― つまり1つの望みが達せられると、さらにその上を望むようになるのだ。