2012年6月号掲載
石橋を叩けば渡れない[新版]
著者紹介
概要
第1次南極越冬隊の隊長を務めた西堀栄三郎氏の講演をまとめたもの。創意工夫する能力を駆使して日本初の南極越冬を成し遂げた氏の、創造的な生き方が披露される。人間は経験を積むために生まれてきた、リスクがつきものだからこそ新しい、調子に乗らなければだめ…。バイタリティー溢れる言葉の数々は、我々に未知の世界にチャレンジする勇気を与えてくれる。
要約
創造的に生きるには
忘れもしない、私が11歳の時、白瀬中尉が南極探検から帰ってこられて、活動写真と称するものを見せてくれた。
それには、ペンギンという珍しい鳥が出てくるし、大きな氷山が映っている。実に雄大な景色で、子供ながらに心を打たれ、いつかチャンスがあれば南極に行ってみたい、という気持ちを持った。
こうした志というか、願いというか、夢というか、そういうものを持っていると、いつか実現の道が開けてくる。人間は生きていくうちに、必ずどこかで分かれ道に行き当たるものだが、その時、夢とか志があると、ついそっちの方を選び、チャンスをつかむことになるのだ。
私がアメリカに留学していた時、休日に何をして過ごそうかと考え、「そうだ、南極へ行ったことのある人を訪問してやろう」と思いついた。
これが1つの分かれ道といえるが、その人たちに会ってみると、とても親切で、私たちは大変親しくなった。日本からわざわざ訪ねて来てくれたというので、とても喜んでくれた。
また、古本屋へ行っても、まるで心の奥底から指図でもあるかのように、フッと手が南極の本をとっている。それらの本をたくさん買い込んで、日本へ帰ってきた。
当時、私は、南極へなど行けるとは考えていなかった。しかし、高嶺の花かもしれないが、そのことを思っているということは、心の支えでもあり、それが励みになっていく。夢というものは、そういうものではないだろうか。
私が11歳で志を立ててから、40何年ぶりかで南極の話がパッと出てきた。もうその時は、私は53歳になっていた。会社でいえば定年も間近だ。
とにかく、強い願いを持ち続けていれば、降ってわいたようにチャンスがやってくるものだ。その時、取越し苦労などしないで、躊躇なく勇敢に実行を決心することだ ―― 。
人間は経験を積むために生まれてきたんや
私は「人間というものは経験を積むために生まれてきたのだ」という幼稚な人生観を持っている。
だから、どんなつらいことであっても、それが自分の経験になると思ったら貪欲にやってみる。どんなに人の嫌がることでも、この考え方でいけば率先してやれるのである。