2012年11月号掲載
世界のお金は日本を目指す 日本経済が破綻しないこれだけの理由
著者紹介
概要
元為替ディーラーのエコノミストが、各種データを駆使し、日本および世界の経済状況、金融情勢を読み解いた。破綻が噂される日本の財政については、「他のどの国よりも経済破綻しにくい」と指摘、財政破綻論の裏にある財務省などの思惑を明らかにする。世界の状況については、ここ数年の金融緩和で滞留している資金が、新たなバブルを引き起こすと警告する。
要約
世界が評価する日本
2012年1月、ニューヨーク・タイムズ紙上で大論争が起こった。08年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン教授と、ジャーナリストのエーモン・フィングルトン氏による、「日本の評価」を巡っての論争である。
クルーグマン教授は、バブル崩壊後の日本バッシングの“急先鋒”として知られる人物である。
一方のフィングルトン氏は、同紙に「日本の失敗という神話」という論説を寄稿した人物。「失われた20年」と言われてきたが、日本経済は実はつつがなく実績を挙げてきた、と主張する。例えば、次のようなことを指摘している。
- ・1989年末(バブル崩壊)時点に比べて、日本円は対米ドルでは87%も価値を高めた。
- ・日本の失業率4.2%は米国の半分でしかない。
- ・日本の2010年の経常黒字は1960億ドルで、89年当時の3倍。片や米国の経常赤字は990億ドルから4710億ドルに膨張した、等々。
そして、日本が敗者であるというのは作り話であり、むしろ日本経済を理想的なモデルとして見習うべきなのではないか、と結論付けている。
これを受けて、クルーグマン教授は同紙のコラムで、フィングルトン氏が指摘するほど日本の状況は良くないと書いた。これにフィングルトン氏が再反論したため、一体どちらがより正確な日本への評価なのか、論争が巻き起こったのだ。
それから数カ月経った12年5月以降、クルーグマン教授は前言を撤回するような発言を繰り返し、最近は次のようなコメントも残している。
「『日本のように我々もなってしまうのか?』と尋ねられたら、『なれるものなら、日本のようになりたいものだ』と私は答えているんだ」
こうした「日本の見直し」は、今や世界の潮流となりつつある。デフレや財政破綻の話で、日本国民は完全に“後ろ向き”にさせられているが、実は日本はずっと世界一裕福な国なのである。
この事実をないがしろにすると国際経済や金融の流れ、為替動向などを大きく見誤ることになる。
「最強の債権国家」の実力
世界中で最もうまくいっている国は日本の他にないのではないか ―― 。そうクルーグマン教授に言わしめた日本見直しの潮流を強力に後押しする材料が、2012年5月に発表されている。