2012年12月号掲載
リバース・イノベーション 新興国の名もない企業が世界市場を支配するとき
Original Title :REVERSE INNOVATION
著者紹介
概要
「リバース・イノベーション」とは、途上国で最初に生まれたイノベーションを先進国に逆流させるという、従来の流れとは逆の戦略コンセプトのこと。それは、時に大きな破壊力を生み出し、先進国の既存企業を破滅させるような新市場を創出する。本書は、このリバース・イノベーションのメカニズム、および実践方法について、豊富な事例を交え解説する。
要約
「リバース・イノベーション」とは?
一般的に、イノベーションは富裕国で始まり、その後で途上国に向かって川下へ流れていく。ところが、その流れに逆行する「リバース・イノベーション」というものがある。
途上国で最初に採用されたイノベーションが意外にも、富裕国へと逆流していくのだ。
インドの病院が富裕国に進出する理由
インドのナーラーヤナ・フリーダヤーラヤ病院は、米国では少なくとも2万ドルかかる開胸手術を、わずか2000ドルで実施している。
そうした低価格にもかかわらず、ナーラーヤナ病院の純利益率は米国の平均を上回っている。
その上、質の面でも世界クラスを誇る。バイパス手術患者の30日以内の死亡率は、米国での平均が1.9%であるのに対し、同病院は1.4%だ。
ナーラーヤナ病院が成功している理由は、プロセス・イノベーションにある。同病院は、先進国の工業分野でお馴染みのコンセプトをいくつも取り入れている。標準化、労働者の専門化、規模の経済、ライン生産方式などである。
同病院はこうしたテクニックを駆使して、手術1回当たりのコストを大幅に引き下げている。
例えば、高価な医療機器は米国の病院の5倍も使用され、外科医がこなす手術数は2~3倍にのぼる。その上、病院の規模が大きいので、医師はそれぞれ特定の種類の心臓手術に特化できる。これによって学習が進み、スキルが向上する。
そしてナーラーヤナ病院は、富裕国にこのビジネスモデルを導入しつつある。マイアミから飛行機で1時間で行けるケイマン諸島に病床数2000の大型病院を建設し、米国人向けに米国の治療費の半分以下で医療を提供しようとするものだ。
川上へとさかのぼる2つのパターン
新興国市場でのイノベーションがどうして上流の富裕国に向かうようなことが起こるのか。
それには、2つの異なったメカニズムがある。「今日の取り残された市場」あるいは「明日の主流市場」へ向かうかのいずれかだ。