2013年5月号掲載
概念のブレークスルーをどう生み出すか リ・インベンション
著者紹介
概要
苦境に立つ日本企業の救世主として、イノベーションに期待する声は多い。だが著者は、もはやイノベーションでは利益は上がらない、代わりに「リ・インベンション」(前衛への挑戦)に注力すべきだと指摘。「製品のコンセプト自体を見直す」「消費者の感性に訴える」など、その要諦を解説する。スカーフの形をした自転車用ヘルメットなど、最新事例も紹介。
要約
脱イノベーション
イノベーションに成功すれば、消費者を満足させた上で、企業も利益を得られる。そう信じ、日本の製造業各社はイノベーションに邁進してきた。
しかし現実を見ると、消費者の生活は豊かになったが、肝心の企業は必ずしも利益を上げるに至っていない。巨額の赤字、工場閉鎖、人員削減など、暗い話題ばかりである。
イノベーションは空しい
なぜ、イノベーションの担い手である企業が、これほどまでに苦しんでいるのか。それは、高い技術力を活かした各社の製品のいずれもが、努力が報われない結果に終わっているからだ。
そのパターンは2つあって、イノベーションで生まれた製品が消費者に受け入れられなかったパターンと、好意的に受け入れられたものの企業の利益には結びついていないというパターンだ。
1つ目のパターンの代表例は、デジタルマイクロレコーダーである。これは切手サイズの磁気テープカセットを用いたデジタル方式の録音・再生機器で、ソニーから1992年に発売された。
競合他社からも絶賛されたが、市場では顧みられず、発売以来4万台を出荷して生産終了。これでは、開発費を回収するには遠く及ばないはずだ。
2つ目のパターンの例としては、コンパクトデジタルカメラがある。
日本では、95年にカシオ計算機が25万画素の製品を発売。ここから熾烈な開発競争が始まり、画素数は優に1000万を超え、最新機種には手ぶれ補正、自動顔認識などの機能が搭載されている。
長足の進歩を遂げたが、出荷単価に目を向けると、1999年に約4万5000円だった平均単価が年々下落、2011年には1万円を割っている。どれだけ高性能な機種を投入しても価格競争から逃れられず、もはや利益の出る製品ではなくなった。
なぜイノベーションは空しいのか
これらは、ほんの一例に過ぎない。
なぜ、このような事態に陥るのか。問題の一端は、イノベーションの構造にある。