2014年6月号掲載
呻吟語
著者紹介
概要
中国の明代、呂新吾が著した『呻吟語』全1976項の中から、236項を厳選して収録したもの。書名は、「病気に苦しみながら発する沈痛なうめき声」を意味する。人の生き方、在り方を説き、読み継がれてきた古典だが、日本では『論語』や『孫子』ほど知られていない。しかし、有名な古典同様、生きる上で直面する様々な問題について、多くの示唆を与えてくれる。
要約
『呻吟語』に学ぶ人間のあり方
『呻吟語』は、有名な中国古典、例えば『論語』や『孫子』ほどには名を知られていない。しかし、知る人ぞ知るで、一部の読者の間で熱心に読みつがれてきた古典である。
著者は呂新吾。明の時代の人で、高級官僚として地方長官などを歴任した経歴を持っているが、政争に巻き込まれて官界から退き、晩年はもっぱら著述と講学に専念したといわれる。
ちなみに『呻吟語』という書名であるが、著者によれば、これは「病気に苦しみながら発する沈痛なうめき声」なのだという。
呂新吾の生きた時代は、現代と同様に混迷の時代であった。彼もまた、我々と同じように、1人の社会人として、また組織の責任者として、悩んだり苦しんだりすることが多かったに違いない。
だが、彼はそういう悩みや苦しみに反省を加えることによって、彼なりの確信に達していったらしい。それを折にふれて記録にとどめたのが、後に『呻吟語』としてまとめられたのだという。
他の古典と同様、『呻吟語』もまた、人間とはどうあるべきか、人生をどう生きるべきかなど、我々にとって切実な問題を様々な角度から解き明かしている。例えば ――
深沈厚重は第一等の資質
深沈厚重なるは、これ第一等の資質。磊落豪雄なるは、これ第二等の資質。聰明才弁なるは、これ第三等の資質。
どっしりと落ち着いて深みのある人物、これが第1等の資質である。積極的で細事にこだわらない人物、これは第2等の資質である。頭が切れて弁の立つ人物、これは第3等の資質にすぎない。
「童心」を捨て去ること
童心は最もこれ人と作るの一の大病なり。ただ童心を脱し了れば、便ちこれ大人君子なり。或るひとこれを問う。曰く、「凡そ炎熱の念、驕矜の念、華美の念、速やかならんと欲するの念、浮薄の念、声名の念は、皆童心なり」。
一人前の社会人となる上で、最も大きな障害となるのが「童心」である。これさえ捨て去ることができれば、それだけで立派な人物になることができる。
「童心とは何か」とたずねる者がいたので、私はこう答えた。