2014年9月号掲載
孫子に経営を読む
著者紹介
概要
日本を代表する経営学者が、経営の視点から『孫子』の名言を選び、読み解いた。「戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ」(まず正攻法、そこに奇手を組み合わせる)をはじめとする“戦略の巨人”の言葉を、経営にどう適用するか、グーグル等の企業事例を交え、伝授する。中国文学者や戦史家による従来の解説書とは一味違う、マネジメント層のための1冊だ。
要約
経営・戦略の本質
『孫子』は、中国古代の春秋時代(前5~6世紀)、孫子(孫武)によって書かれた兵書である。
兵書として世界的に有名な古典だが、経営やリーダーシップの本として読む人も多い。その内容は企業や国の経営について、あるいはリーダーのあり方について、深い洞察に満ちている。
その洞察の源は、第1に、孫子の「人間理解の深さ」にある。第2の源は、常に「物理と心理の両にらみ」で考えるという、ものの見方だろう。その複眼が、彫りの深い論理を生み出している。
こうした、2つの源泉があるがゆえに、深い洞察を『孫子』から得ることができる。
この比類のない兵書を、「経営」という視点から読み解いてみたい。
論理的積み上げの大小が、未来を決める
「算多きは勝ち、算少なきは勝たず。而るを況んや算なきに於いてをや」
敵軍と自軍の比較をきちんとして、その上で対策としてのはかりごとをめぐらす。
そうした計算と論理的組み立てが「算」の内容だが、その質と量がともに大きければ戦さに勝てる。それが小さければ勝てない。ましてや、算なき場合には勝てるはずがない、という意味だ。
しかもその算とは、「戦さに入る前」の「廟算」だ、と孫子はいう。ここで引いた「算多きは勝ち、…」という文章の前に、こう述べている。
「未だ戦わずして廟算して勝つ者は、算を得ること多ければなり」
廟算とは、君主の祖先を祀ったお霊屋での算のこと。古代中国では戦さの前に、戦勝祈願もかねて先祖の宗廟で作戦会議を開くのが常であった。