2015年2月号掲載
ビジネスモデル・エクセレンス ハイアールはなぜ白物家電の王者になれたのか
Original Title :Reinventing Giants:How Chinese Global Competitor Haier Has Changed the Way Big Companies Transform
著者紹介
概要
世界一のシェアを誇る中国の家電メーカー、ハイアール。三洋電機の家電事業を買収したことでも知られる同社のビジネスモデルを紹介する。自らをサービス企業と見なす、顧客ニーズに応えるためなら何でも行える独立した事業ユニットを作る、成功を収めながらも組織を何度も作り直す…。顧客との距離をゼロに近づけるためのビジネスモデル改革に、学ぶべき点は多い。
要約
ハイアールの歴史と企業文化の変遷
外国企業の攻勢を防ぎ、市場シェアを拡大させた中国の家電メーカーは数多いが、世界的企業と評価されるほどの企業は多くない。ハイアールは、そう評価されてもいい企業の筆頭候補だ。
ハイアールはビジネスモデルを何度も練り直し、それを機能させるために必要な組織文化をつくり直すことで成功した。同社の事例は、新規市場の開拓方法や、その成功のためにどんな経営上の判断が必要かを考える際に、良い具体例になる。
まずは、同社のビジネスモデルと企業文化の変遷を時系列で見ていこう。
第1段階(1984~91年):ブランド構築
1980年代初頭の中国では、取り立てて語るほどの白物家電産業はなかった。84年までに、2、3の家庭用冷蔵庫がようやく大都市で手に入るようになり始め、冷蔵庫に対する需要が増えた。
この頃に登場した家電メーカーの1つが、青島冷蔵庫本工場だった。84年、青島市の家電会社の副部長だった35歳の人物が、この会社の工場長(実質的には社長)に就任する。現在、ハイアールの会長兼CEOである張瑞敏(チェン・ルエミン)だ。
張が描いた最初のビジネスモデルは、製品の品質の高さを基盤に、強力で価値のあるブランドを構築し、差別化を図ること。そのためには、大幅な企業風土の改革が必要だった。
工場長に着任してすぐ、張は品質改善を最重要課題に掲げた。そして、品質を人ごとではなく自分の問題として受け止めてもらうために行ったのが、不良品冷蔵庫の破壊行為だった。
ある日、客が不良品の冷蔵庫を工場に持ち込んだ。張は在庫をチェックし、代わりの製品を探した。その過程で、在庫商品がひどい品質であることに気づく。意を決した張は、76人の従業員に76台の低品質な冷蔵庫を表の通りへ運び出させ、公衆の面前でハンマーを使って破壊させた。この出来事は人々の記憶に強く残った ―― 。
この破壊行為によって張は、従業員を奮起させる鮮明なビジョンを組織内に打ち立てた。
また、新たな企業文化の実現に向けルールを明確に策定し、違反者は処罰した。これも「高品質な製品で強力なブランドを構築する」という新しいビジョンを植えつけるためだった。
さらに、「6S」運動を取り入れた。毎日、作業が終わると、成績が悪かった従業員が床に描かれた足跡の上に立たされる。足跡の前の壁にはSで始まる6個の言葉、「整理、整頓、清掃、清潔、しつけ、セキュリティ」と書かれたポスターが貼ってあり、そこで従業員は自分の仕事を反省する。