2016年3月号掲載
日本は「パッケージ型事業」でアジア市場で勝利する 顧客価値起点で考えるビジネスモデルへの転換
著者紹介
概要
アジア市場において、韓国、中国企業と厳しい戦いを強いられている日本の製造業への“処方箋”である。競争に勝つには、もはやモノづくりだけでは難しいとし、製品とサービス、運用技術などを組み合わせた「パッケージ型事業」を提案。ポテンシャルの大きい、統合的な事業を築く上でのポイントを、企業事例を交えて示す。
要約
なぜアジアで勝てなくなったのか?
日本の製造業は戦後から2000年代初頭まで、その品質の高さで、輸出を中心に大きく業績を伸ばすことができた。
しかしながら、製品のコモディティ化や、中国・韓国・台湾企業などの品質面での急速なキャッチアップ、さらにはこれらの国々の企業の大規模投資により、日本企業はモノづくりにおいて過去のような優位性を保てなくなっている。
なぜ、アジアで日本企業が勝てなくなったのか。その理由として、次のようなことが考えられる。
①自前主義の弊害
日本の製造企業は、自社の良い製品、技術にこだわり、自前単独での事業に固執することが多い。そして、新しい事業を興そうとすると、「顧客にとっての価値は何であるか?」よりも、技術や製品の性能での新規性に走りがちである。
しかし、アジアを中心とした新興国では、過度に優れた製品を供給しても過剰品質になり、顧客が求めるものとかけ離れてしまう。実際、昨今は携帯電話や液晶テレビにおいて、サムスンなどの韓国メーカーに大きく水をあけられている。
②顧客への経済的価値を具体化できない
顧客価値を考え、具体的に何を提供価値とするかを明確化しても、さらに難しいのは、それを経済的価値として明確に示すことであろう。
例えばインフラであれば、日本企業の保有するノウハウは製造業者のみならず、自治体などの運行事業者にも蓄積されている場合が多い。製造業者は運行事業者と一緒に顧客のニーズをきめ細かく拾いながら、カスタマイズ対応している。
しかし、これらのノウハウは明文化されていないものが多い。さらに、製造業者と運行事業者が分かれているために、インフラ運用ノウハウによりもたらされるメリットの経済的価値を、明確に顧客に示せていない。
③市場ニーズ把握の仕組みが弱い
日本企業の多くに、現地ニーズに関する情報収集力の弱さが見受けられる。
例えば、製品に関する企画、開発、生産機能などは日本本社がイニシアティブを持っており、現地側は日本が製造するものを販売する役割だけを担っている場合が多い。
そのため、顧客である現地政府との人脈形成や、市場ニーズの収集・分析を行う機能が弱い。