2016年5月号掲載
シャープ「企業敗戦」の深層 大転換する日本のものづくり
著者紹介
概要
かつて「液晶ならシャープ」とまで言われた勝ち組企業が、ここまで凋落した原因とは? シャープの“企業敗戦”について、在籍33年の著者が掘り下げた。「大転換する日本のものづくり」と副題にある通り、同社が陥った危機は対岸の火事ではない。世界の産業構造が大きく変化した今日、変化に適応できない企業は淘汰される!
要約
「選択と集中」は正しかったのか?
ある時には正しかったことが、ある時には正しくなくなる ―― 。「選択と集中」という言葉を聞くたびに、私はこの思いを強くする。
自社の得意な事業領域を明確にし、そこに経営資源を集中的に投下する、選択と集中。この言葉は1990年代半ばから日本の産業界を席巻した。
1980年代、バブルの時代は、日本企業の間で「多角経営」がもてはやされた。しかしバブルが弾けると、手を広げすぎたことが経営の足を引っ張るようになった。そうした中で、選択と集中はまさに時宜を得た戦略だった。
しかし、その結果はどうだっただろうか? うまく行かなかった企業の方が多いのではないか。
「ブラウン管を液晶に置き換える」という挑戦
1998年に、シャープの4代目社長になった町田勝彦氏が「クリスタルクリアカンパニー宣言」をした。これは、液晶に代表される独自技術で「オンリーワン企業」を目指すというものだ。
まさに典型的な「選択と集中」戦略である。町田氏はさらに、この戦略のゴールも設定した。
「国内で販売するテレビを2005年までに液晶に置き換える」
当時、12.1インチと15インチの液晶テレビが市場で販売されていた。15インチで18万円。これはブラウン管テレビの4~5倍の価格で、とても対抗できる商品ではなかった。そんな時に、「すべてのテレビがブラウン管から液晶に置き換わる」未来は、とても想像できなかった。
だが、ゴールの設定は不思議な効果をもたらす。これにより、シャープの企業活動は一定の方向に向かって突き進むようになった。
2001年、13~20インチの初代「AQUOS(アクオス)」を市場に出すことに成功。価格を「1インチ1万円」と設定し、その後の普及への足がかりをつくった。そして、液晶テレビの売上を劇的に伸ばす。
この時のシャープは、明確なビジョンを示し、それを達成していくという「ビジョナリー・カンパニー」であった。メディアはこぞって町田氏を名経営者と呼び、シャープの取り組みを称賛した。