2016年6月号掲載
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門
著者紹介
概要
2015年度の入場者数は過去最高の1390万人。新規事業の成功率97%。業績が好調なUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のマーケティング最高責任者が、その成功ノウハウを語った。本書で明かされる「マーケティング思考」は、マーケターだけでなく、あらゆるビジネスの成功確率を高める大きなヒントになるはずだ。
要約
成功の秘密はマーケティングにあり
USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)は、2001年の開業年度には華々しく年間1100万人を集客した。だが翌年、700万人台へと急降下し、わずか3年後の2004年に事実上の経営破綻をした。
新社長グレン・ガンペルは徹底的なコストカットでこの危機を乗り越え、私が入社した2010年当時には破綻寸前の状態からは脱していた。しかし、年間集客は730万人と伸び悩んでいた。
集客低迷の原因に対する誤った仮説
マーケティングに期待される第1の仕事は、売上を伸ばすことだ。私はそのために雇われた。集客数をどうやって伸ばすのか、という命題に対して、明確な指針をすぐに求められた。
多くの幹部社員からヒアリングした結果、集客低迷の原因については主な仮説が2つあった。
1つは、不祥事によりブランドイメージが地に堕ちたこと。2002年に食品賞味期限の偽装問題、工事ミスで工業用水がパーク内の水飲み器に繋がるといった問題が立て続けに起きた。それら不祥事によるマイナスイメージのせいだとする。
しかしこの仮説を聞いた瞬間、私は「そんなことはあり得ない」と思った。10年近く前の不祥事を気にして今もパークに来ない人はほとんどいないはず…。確認のために実際に数字を調べてみたが、やはり不祥事が起こったから集客が減ったのではないことは明らかだった。
もう1つの仮説は、「映画のテーマパーク」というブランドの軸がブレたせいだというもの。
グレンが会社の危機を救うために「ハローキティ」などのキャラクターや、映画とは無関係のコンテンツを導入した。その結果、「映画だけ」にこだわったパワー・オブ・ハリウッドというブランドイメージが迷走し、映画を愛するファンが離れた。さらには、ハリウッド映画のパークという明確なテーマ性を失ったことで、東京ディズニーリゾートと差別化できなくなっていると。
この仮説に対しては、私の「数値に基づく市場理解」に照らして強い疑念があった。
まず、エンターテイメント全体に占める映画の割合が、1割しかないという事実がある。人々の行動の平均値として、何かのエンターテイメントを10回楽しむとすると、映画を見ているのはそのうち約1回でしかない。だから映画ファンだけで1100万人も集客できるわけがないだろうと。
次に引っかかったのは、東京ディズニーリゾートとUSJの物理的距離だ。500km離れているのに、週末にディズニーかUSJの2択で迷う人はいないだろう。なんといっても、関東と関西の間には「交通費3万円の川」が流れているからだ。