2022年7月号掲載
ナイキ 最強のDX戦略
著者紹介
概要
未曾有のコロナ危機で多くの企業が苦しむ中、スポーツブランドのナイキは業績を伸ばし続けている。なぜ、それが可能なのか。強さのカギは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入にある。スマートフォンアプリを使った取り組みなど、デジタルそのものをビジネスの核に据えた、独自のDX戦略について解説する。
要約
コロナ危機とナイキ
新型コロナウイルスの流行により、人々の暮らしや経済活動が大きく制限され、その中で多くの企業が苦境に立たされてきた。
そうした危機的状況にありながら、ナイキはまさにパンデミックをバネとして成長した。
赤字に転落するも、直販売上が大幅増
2020年2月4日、ナイキのCEOジョン・ドナホーは、新型コロナの影響を受け、中国でナイキが所有する店舗の約半分が閉鎖されていると発表。3月15日には、16日から27日まで、米国、カナダ、西ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドのすべての店舗を閉鎖すると発表した。
6月25日に発表されたナイキの2020年の第4四半期の売上は、前年同期比38%減少の63億ドル。純損失は7億9000万ドルを計上した。
ナイキが純損失を計上するのは、1998年第4四半期以来である。この時はアジア通貨危機などが要因だった。今回の赤字額は当時よりも大きかったが、赤字の中身が当時と決定的に異なるのは、デジタル変革の存在だ。店舗が閉鎖されるという状況下で、アプリやオンラインを介した直販売上が爆発的に増加したのだ。
コロナ危機下の驚異的なデジタル浸透
6月の決算発表でドナホーは、コロナ危機の中、ナイキは「デジタルエコシステムを使って消費者とのつながりをより強固にした」ことを強調した。デジタルエコシステムとは、SNSと自社アプリを組み合わせたデジタル戦略のことだ。
ナイキは、ECサイト「ナイキドットコム」の他に、スマートフォンアプリとして「ナイキアプリ」や「ナイキトレーニングクラブアプリ(NTC)」などを展開している。これらのアプリは、コロナ危機下において家の中にいる消費者とつながるための強力なツールとなった。
例えば、ナイキトレーニングクラブアプリ。ナイキは有料だったNTCのプログラムを無料にした。これにより、消費者は動画によるワークアウトや専門家からのアドバイスなどが無料で利用できるようになった。
また、このサービスを幅広く知ってもらうために、インスタグラムなどのSNS上に動画をアップした。すると、タイガー・ウッズやマイケル・ジョーダンなどの有名契約アスリートがその動画を共有した。そして世界中のアスリートや一般の人たちが、自分のワークアウトの様々な動画を投稿し、大きな広がりを見せた。
こうした取り組みにより、ナイキは「消費者との強いつながり」を作り、莫大な数のアプリのダウンロード数とナイキ会員の増大を実現した。