2016年8月号掲載
確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力
著者紹介
概要
ハリー・ポッターのテーマエリアをはじめ、数々のヒットを生み続けるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)。新規プロジェクトの成功率は98%。これは偶然ではない。勝つ確率の高い戦略を導き出す「数学マーケティング」のたまものだ。そのノウハウを、低迷するUSJを数年で大変身させたマーケターとアナリストが明かす。
要約
「市場構造」の本質
「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」は、ここ5年で60以上の新規プロジェクトを連続でヒットさせ、V字回復した。ハリー・ポッターをオープンした2014年度の年間集客数は過去最高の1270万人、2015年度は1390万人を達成。
2010年の入社以来、私(森岡)のマーケターとしてのUSJでの通算成績は、64打数63安打、打率9割8分4厘だ。何年にもわたって成功確率98%のようなことは、偶然では起こり得ない。
ビジネス戦略の成否は“確率”で決まっている。そしてその確率は、ある程度まで操作できる ―― 。
「市場構造」とは何か?
私はビジネスを行う際、自分が戦う「市場構造」の本質をあぶり出す。市場構造の本質さえわかれば、その市場で勝つための戦略をどこに集中すべきかが明瞭に見えるようになる。
市場構造とは、ある商品カテゴリーにおける、人々の意思と利害と行動が積み上がった全体としての業界の仕組みのことだ。消費者、小売業者、製造業者など、ビジネスに関わる全プレイヤーの思惑と利害が様々に衝突し、それぞれの力関係に沿ってある一定の「やり方」に収束していく。
市場構造とは、簡単に言えば「その市場における全体としての人々のやり方」のことだ。
では、それら市場構造を決定づける「本質」は何か? それは、消費者の「Preference(プレファレンス)」だ。すなわち、消費者のブランドに対する相対的な好意度(好み)である。
経営資源はプレファレンスに集中する
例えば、私は男性化粧品に全く興味がないので(プレファレンスがゼロ)、そのカテゴリーの商品を買う回数もゼロだ。逆に、エンターテイメントが大好きな私は、そのカテゴリーの商品は映画やアニメのDVDでもゲームソフトでもよく買う。
プレファレンスを上げると、売上が直線的に伸び、会社のパフォーマンスが上がる。だからこそどの企業も消費者視点を最重視して、プレファレンスの向上に経営資源を集中せねばならない。
戦略の本質とは何か?
ビジネス戦略の本質は、実はかなりシンプルだと私は考えている。戦略、つまり経営資源の配分先は、結局のところ、「プレファレンス(好意度)」「認知」「配荷」の3つに集約される。