2016年6月号掲載

脳はなにげに不公平 パテカトルの万脳薬

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著者紹介

概要

「手を握るだけで記憶力は上がる」「男女で違う脳の使い方」「脳細胞は年を取っても減らない」…。脳科学に関する新発見から、人の何気ない言動の背景まで。人気の脳研究者が、脳にまつわる選りすぐりの科学論文を、自らの解釈を交えつつ、わかりやすく紹介した。思わず誰かに伝えたくなる、興味深い科学知見が詰まった1冊だ。

要約

脳の不思議な仕様

 最先端のサイエンスの現場では、話題が尽きない。連日のように新しい発見が報告される。その知見の一部を、皆様にお伝えしたい。

不平等な世界の方が安定する

 長年続けてきた研究を、最近ようやく発表することができた。「不平等な世界の方がシステムはうまく動く」と主張する論文である。

 神経細胞をつなぐシナプスには強弱がある。シナプスの強さの違いを調べたところ、強いシナプスと弱いシナプスには100倍もの強度差があることがわかった。文字通り「桁違い」の格差である。

 さらに重要な事実がある。強いシナプスはごく一握りで、大多数は弱いシナプスだったのだ。

 この不公平な分布に、どんな意味があるのか。

 私たちは、コンピュータ上でシミュレーションしてみた。すると、不平等な脳回路には、平等なシナプスのみでできた脳回路にはない利点が2つあることがわかった。動作が安定すること、そして省エネであること。つまり、脳においては、不平等な社会の方が長期安泰なのだ。

 では、どうして不平等になってしまうのか。次のような簡単な実験をすればすぐにわかる。

 100人に1万円ずつ配る。そして、乱数表を使って、100人の中から2人をランダムに選び出して、1人目から2人目へ1000円を渡す。このトレードを1000回繰り返す。さて、100人の所持金はどう変化するか。

 ところが、トレードを繰り返すと、次第にごく一部の大金持ちと、その他多数の貧乏人が出現するのである。これは「ボルツマン分布」と呼ばれるもので、数学的には自明な結果なのだ。

 「平等さを突き詰めると不平等になる」のは、自然なプロセスなのである。だが、多くの人はこの統計学的事実に気づかずに、平等主義や民主主義の理想像に憧れるのである。

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