2017年8月号掲載
平均思考は捨てなさい 出る杭を伸ばす個の科学
Original Title :THE END OF AVERAGE:How We Succeed in a World that Values Sameness
著者紹介
概要
今日の社会は、「平均」を基準に評価をすることが多い。これに対し、本書は、平均的という概念は科学的虚構にすぎないと指摘。「平均思考」がいかに大きな障害となり得るかを、具体例を挙げて明らかにする。そして、個人を正しく評価するための「3つの原理」を示し、個性を重視した経営が社員や企業に幸福をもたらすと説く。
要約
「平均的な人間」など存在しない
1940年代の末、米空軍は深刻な問題を抱えていた。飛行機が着陸に失敗したり、消息を絶ったりするなど、トラブルが続出していたのだ。
様々な角度から調査しても原因は見つからず、最後に関係者はコックピットに注目する。コックピットの大きさは、1926年に何百人ものパイロットの体を測定し、その平均値に合わせて規格化されたものだった。関係者は、パイロットの体がその時よりも大きくなったのではないかと考え、4000人以上のパイロットの体の各所を測定した。
ギルバート・S・ダニエルズ中尉は、このデータを使い、コックピットのデザインに最もふさわしいと思われる平均的な寸法を身長、胸回り、腕の長さなど、10カ所について計算した。
その上で、この「平均的なパイロット」の体のサイズとの誤差が30%以内なら、平均に該当すると見なした。例えば、平均身長は175cmだったので、平均的なパイロットの身長は170~180cmになる。ダニエルズは、パイロットを1人1人、平均的なパイロットと比較した。
すると驚いたことに、該当者はゼロ。4063人のパイロットの中で、10項目すべてが平均の範囲内におさまった者は誰もいなかった。さらに10項目を3項目に絞り込んでも、3つすべて平均値におさまる者は3.5%に満たなかった。
つまり、平均的なパイロットなど、存在しないのである。平均的なパイロットに合うコックピットをデザインしたら、実際には誰にもふさわしくないコックピットが出来上がるのだ。
ダニエルズは、コックピットは平均値に合わせるのではなく、各兵士の個性に応じて決定されるべきだと提案した。それを受けて飛行機メーカーが生み出したのは“調整可能なシート”で、今日の自動車に採用されているものと同じだ。
こうしてシートが変更されると、パイロットの飛行技術は飛躍的に向上した ―― 。
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「平均的な人間」の存在を信じる落とし穴にはまって失敗するケースは多い。
こうした平均主義への依存から脱却するための3つの原理、「バラツキの原理」「コンテクストの原理」「迂回路の原理」を順に紹介しよう。